した。

 私たちは舌を絡め合う。熱く、ねっとりと、まるで生き物のように、お互いを求める。私の口腔を埋め尽くすようにあなたの舌が蹂躙していく。息ができない。このまま窒息してしまおうか、なんて、馬鹿げたことを考える。途端、あなたの舌がもっと奥までぬるりと入り込む。

 ぐぅ、とくぐもった呻きが洩れた。

 口の端から唾液の伝う感触がする。熱を持って口内から出てきたそれは、外気に触れて一瞬で冷たくなる。

 私もこんな風になってしまいたい。

 言葉にはせず、あなたの頭をぐいと寄せる。このままキスと唾液の海に沈んでしまえばいいと思った。


「君とのキスはとても気持ちがいい」

 どうして? 快楽に蕩けた顔と声で、こてん、と頭を傾ける。可愛い。月並みだけれど、可愛い、と思う。黙ってあなたの方へ顔を向けて、口を少しだけ開けた。

 ぱかり。舌先がふたつに分かれる。

 わあ、とあなたは口を丸くした。そうして、すごいね、とも。

「へびだ」

 あなたの言葉に、私は得意な気分になる。舌先を器用に別々に動かす。ちろちろ。ちろちろ。だけど、あなたの目線が私の口許へあんまりにも釘付けになっているから、悪戯心はしゅんと萎んで、口を覆ってしまいたくなる。その羞恥心さえ心地いい。

「そうだよ。私、本当はへびなの」

「食べられちゃうね」

「うん。食べちゃう」

 しゃー、と口で言いながらあなたに覆い被さる。耳朶を舌で挟んでくにくにと弄る。あなたはくすくす笑い声を漏らして、私を引き剥がそうとした。

「だめだよ。食べられたら、君とキスができなくなっちゃう」

「いいじゃん。食べられるって、全身で私とキスできるってことだよ。口だけじゃなくて」

 ほんとー? と語尾を伸ばしてあなたはやっぱり笑う。どうしたって可笑しいらしい。あなたの間延びした声が、あなたの笑い上戸なところが私はとても好き。

「ほんとだよ。私、君を食べたい。君の全部にキスしたい」

「えー?」

 くすくす笑いを両手で隠して、私にいっそうくっついて来る。私は真顔で、あなたを見つめる。じーっと見つめていると、両手の中に笑みがすべて収まった。

「……もう。じゃあ、いいよ」

「えっ。食べても、いいの?」

「やだ、違うよー。全部にキスしていいよってことだもん」

 痛いのは嫌い、と頬を膨らませる。漫画やアニメじゃないんだから、と私は仕草に苦笑する。

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 逃がさないように、全身で覆い被さる。快楽に浮いた背中に左手を滑り込ませてブラジャーのホックを外した。あなたは私を払いのけて、圧迫の消えた胸元を押さえようとするけれど、それを許すほど優しくない。あなたが動くよりも早く、ブラジャーごとブラウスをたくしあげた。

「だめ」

 慌てたようにあなたは私を咎めるけれど、そんなことはどうだっていい。

「だめはだめだよ」

 声を発しながら、あなたのふっくらした乳房へ顔を埋める。大きいわけではない。けれど、柔らかな肢体にはお誂え向きの、形のいい乳房だ。その先端、綺麗な薄桃色が恥ずかしそうに座っている。私はそれを、左右の舌で包みこんだ。ぴく、と瞼を閉じたあなたの睫毛が揺れる。そのまま、甘噛みして先端を吸い上げる。頬が乳首よりも色づき、あなたは全身を小さく震わせていた。真っ白くて、赤ちゃんみたいな産毛を纏った肌も、ほんのりと赤らんでいる。

 くすっ。

 笑い声が聞こえた。擽ったくて笑ったあなたの声かと、すぐ上にある顔に視線を遣る。あなたは口に手を充てがって、声を堪えるばかりだった。くすっ。もう一度聞こえてきた。あなたの視線が一瞬だけ私へ向いて、私は、それが私のものだと知った。私の舌が肌を撫でるたび、あなたの身体はぴくんぴくんと反応する。少しずつ胸から下がっていき、へそを舌先で押した。息を呑んで、全身が強張ったのが、目を閉じていてもわかった。

 くすっ。

 今度は、きちんと意思を持って笑った。そのまま私に身を任せて。すべてを私に委ねて。


 全身に舌を這わす。私が触れていないところは、きっともうない。知恵の実を食べるようにイヴを唆したへびよろしく、私はあなたを快楽へと堕としてゆく。口元から覗いた舌が、私とは別の人格を持っているように不敵に蠢いていた。

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