からだ。

桜々中雪生

ゆび。

 細く長く。

 しなやかに。

 彼の指が私の肌を滑ってゆく。


 私はそれにすべてを委ね、目を閉じ、そのなめらかさを感じるのだ。

(ああ……)

 何故だろう。彼とは、恋人でも何でもない。ただ、高校で出会い、いつからか、こうする関係になっていた。

「きれいだ」

 彼が呟く。いつも、同じ。私の肌の色、繊細さ、柔らかさそれらが、彼の理想なのだと、いつだったかこぼしていた。

 私にとっても彼の指は理想だ。骨張っていて長く、男らしい。それでいて、決して私を傷つけない。優しい指先。それらに私のからだを撫でられると、仕事の鬱憤や、家事に追われる生活、すべてがどうでもよい、些末なことのように感じられる。首筋を彼の指が這う。水の中に揺蕩っているような感覚。そうだ、彼の指は水のようだ。ひんやりとして、どこか掴みどころのない……。


 私の柔肌を撫でる指が強く熱く感じられる。冷たく、熱い。矛盾を孕んだ指にからだを委ねることが心地よい。そう思いながら、私はまた、意識を手離すのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る