うで。
私は私が嫌いだ。この上なく嫌いだ。外見も、中身も。顔は不細工だし、スタイルも最悪、そのくせ腹黒くて他人を見下してて計算ずくで生きてる。正直取り柄なんて何一つない。他人からだって、嗤われ、蔑まれて生きてきた。こんな、自分でも好きになれない自分だから、恋愛だの友情だのにも本気になれない。自分ですら嫌いなのに、そんな私を他人が好きになってくれるわけがない。
好きだといってくれたあの人を、私はそう言って突き放した。呆れて、幻滅して、去っていくと思ったのに、あの人はそうしなかった。大きく一歩踏み出して私との距離を縮めると、その大きな腕で私を包んだ。痛いほど強い力で抱きすくめられ、息ができなくなるほどだった。
「君が今自分のことを嫌いでもいい。本当は悲しいけど、少しずつ好きになれるよう努力するから。僕のことも信じられなくていい。ゆっくり時間をかけて、君に伝えるから」
どうして。
ぱくぱくと口を動かし、見えないように問うた。抱き締める腕が強くなった。
ふっ、と。
考える。
この腕に包まれていれば、少しずつ、自分を好きになっていけるかもしれない。
しかしまた、別の考えが脳内を埋め尽くす。
本当に? 今まで努力しても駄目だったのに、この人一人で、変えられるのだろうか?
強く抱き締め返し、自問自答する。
そんなわけない。変われない。自分が、変わろうとしなければ。この人のために。他の誰でもない、この人の、ために。
ちゃんと隣にいられるよう、胸を張って好きだと言ってもらえるよう。
強く抱き締め返す。
「ねえ」
「ん?」
珍しく自分から話しかけた私に、目を細めて彼は顔を近づける。
「あのね、」
私、あなたが好き。だから、あなたに釣り合うために、頑張るね。
恥ずかしさが勝って、はっきりと彼に伝えられなかった。彼の逞しい腕に唇を押し付け、もごもごと声を出す。
「ええ? 何言ってるかわかんないよ」
困った口調で、しかし楽しそうな声色で彼は言う。もしかしたら、彼にはすべてわかっているのかもしれない。私の胸の内が。苦悩も、決意も、この気持ちも。
「君はね、ほんとうは腹黒くて嫌なやつなんかじゃないよ。少し、人を信じるのが怖いだけなんだよね」
ふわりと包みこむように言われて、肩が大きく跳ねた。違うよ、と否定するより早く、彼が続きを話す。
「僕はちゃんと知ってるよ。だって、君は僕のことをすごく大切にしてくれている。すごく優しい人だ。苦しいだろうに、僕を信じようともしてくれてるよね、ありがとう」
好きだよ。
そう言って、前髪越しに額にキスを落とす。こんな風に誰かに認められて、褒められて、受け入れられたことなんてなくて、全身が熱くなるのがわかった。それに気づいたのか、彼はさらに強く抱き締めてきた。覚悟を決めて、ぐっと身体に力を込める。彼の腕に押しつけていた唇を話し、そっと開く。
「……私も、好き」
表情は見えないけれど、彼が、これ以上ないくらいに微笑んだのが空気でわかった。
「頑張ってくれたんだね。ありがとう」
やめてよ、全部見透かされてるみたいじゃない。
心の中で毒づいて、赤くなった顔をごまかすために、彼の腕を強く噛んだ。
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