箱の中の王様

上山ナナイ

箱の中の王様

第1話

箱の中の王様

鳥海ナナイ


空が流れていく。光と雲が形を変えながら、空が恐ろしい方向へ流れていく。あの空の流れを止めることなど、誰にも出来はしないのだ。あの空の色を変えることが出来るのは太陽ぐらいなものだ。

その太陽でさえ、時刻がくれば、世界から姿を消す。見守るもののいない、星の時間がやってくるのだ。


*


昨夜、雨が降った。パステルカラーの屋根が立ち並ぶ中、学校へと続くレンガの道には、水が溜まっていた。時刻は7時。登校のラッシュよりまだ早い時間帯だ。静かな街中を、学生の自転車が、時折思い出したように、スッと道の脇を横切っていく。雲の多い青空。水溜りは鏡のように、空と雲と太陽の光を映している。空気は湿っていた。

赤い服を着た女の子は自転車のペダルに力をこめる。この水たまりを通ると、一瞬だけ、空を飛んでいるような気分になれるのだ。シャーッと静かな水飛沫を立てながら、女の子の自転車は空を渡る。波紋が広がり、光は動揺する。わずかな飛行の後、自転車は空を抜け、レンガの大地に着陸した。

自転車の車輪は泥にまみれていたが、女の子の心のなかで自転車は空に舞い上がった。自転車は彼女の心を抜け、空の彼方へと消えていった。西の空には虹が差していた。

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