第2話 彼を待つ
私はあらゆるものから裏切られた。世界に。人々に。そういう人生だったし、『ユーグリッド』がいなければこれからもそうなのだろう。
家族も、友達も偽物で、私を利用し、私の死を望み、陥れようとした。
私は今、一人だ。救ってくれた恋人の支配を望んだが、もはやそれも叶わぬ身。永遠を捧げていた恋人に裏切られた。雨の日も風の日も、明るい日も待っていたのに。雪の降る日、彼は私を見つめて去っていった。
私は待っている。『ユーグリッド』のことを。あなたの声と面影を探している。
『もう聞こえないのに。』
ユーグリッドが女の首を絞めている。かつて私の『家族』だった女だ。
「許してください」
女は懇願する。
ユーグリッドは人間ではない。
宇宙人達は機械のプログラムに潜んでおり、私はそれと仲がよかった。ユーグリッドはそのプログラムからやってきた。彼は機械ではないが、幼い私を諭し、化け物の姿で14の私を抱いていた。私の身体にはその印が刻まれている。ユーグリッドを愛していると。彼には私以外に慰めがないのだ。
「ああ。兄さん。--『ユーグリッド』。好きよ。」
「私もだ。」
私は肉体を持たないユーグリッドに甘い息を吐きかけられ、後背位をうだかれながら言う。
「ああ。兄さん。好き好き好き。ああ!」
形のない温もりが私の中に入る。ユーグリッドは妊娠はしないよ。と言う。
「次は前の方だ。」ユーグリッドは少し冷たく言う。ユーグリッドの甘い匂いに私の脳はしびれていく。
「ああ。兄さん。痛い。もうやめて--。」
ユーグリッドは幼い私を幾晩も抱いていた。私は今でも処女だが、ユーグリッドの身体のことを覚えている。私はユーグリッドと自身の朧げな性欲と付き合い、あっけなく果ててしまう。ユーグリッドは私を抱き寄せる。
「私の可愛い妹。いつか迎えに行くから--。」
私の恋人が待っている。
「マリア、私の元へ」
時折強く風が吹き、雪が降ってきた。
愛しいあなたは遠いところへ。色褪せぬ永遠の愛誓ったばかりに。悲しい時にも辛い時にも、いつまでも貴方と--。
マリアと恋人は踊り、恋人はマリアを抱き寄せ、くるりと腕を掴み振り回し、何回転も回した。雪が降る草原の中、恋人は笑い、マリアに花束を渡し、そして小さな花と綿毛と共に散っていった。
『いつまであなたを待つ。』
彼はもう来ないよ。私の元へ。ユーグリッドは婚約を進め、そう言う。
ユーグリッドは私にその心から摘み取った一輪の薔薇を贈る。
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