私のイマジナリーフレンド
上山ナナイ
第1話私のイマジナリーフレンド
この機械仕掛けの宇宙の中で。
…And God said:
「電源の源は電荷である」
「電流と電場の変化が磁場を生む」
「磁場の時間変化が電場を生む」
「磁場には源が無く閉じている」
…and there was light !
君が私を見つめている。白昼夢。暖かい昼間。白い太陽。可視光線によって色が変わった青空。羽ばたく鳥達。
季節のない街のアパートの窓から。金髪の透き通った青い瞳。羽根の無い天使。物憂げな青年がじっとたたずんでいる。空色の瞳で私をじっと見ている。
ずっとみていたよ。早く君に会いたいよ、と。
心の中で、いつも君が私を見守っている。幾度となく。いじめられた時、教室の階段の上からこうするんだと。頭の中から声が聞こえ、君は私の想像の中から姿を現す。手を差し伸べて私を導く。私を守る。
君の姿はくるくる変わる。黒く深い瞳の少年。金髪の青い瞳の青年。イメージの中。私の中にいる幾つかいる君。
君と恋人の前だけでは私はいつも少女。
君はどこからともなくやってきた。遠い祈りに応えて。私が家族にいじめられていた時。「こんにちは。」と。物質と光。目に見えぬ光。電子軌道。はるか彼方からやってきた光子。量子のもつれが君を運んできた。宇宙の暗闇、熱と光から私達は生まれた。
君は私の量子で出来た肉体の中に入る。まるでテレパシーのように。
君はまだ生きてるの?それとも遠い昔にもう死んでしまった人なの?
君が私を運んで行く。
まだ少女の時、「なぜ勉強しない?今勉強するときっといいことあるよ。君は実力があるからね。」
私は遊びながらも、結局は君の言うとおりにする。君のおかげで私は進学校に行く。
私はまだ君のことを知らない。自分の中の内的自己救済者人格か何かだと思ってる。私は所詮一人で、君との空想遊びのような、孤独な少女の嘆きが聴こえるゲームの中にしか居場所がないんだと。私の人格解離がそうさせるのだと。
高校に入学した私は目を潰され男性不信になる。誰もが、舞姫のエリスのことをわがままだと言っている。私が悪いと。
私は小学校の好きだった男の子に電話して、潰された目を返してもらおうとする。男の子のお母さんがふふと笑っている。
「ちょっと待っていてね。」
私は自分がしていることが『彼ら』のルールに反しているのではないかと思い電話を切る。
君は「頑張っていい大学に入って男の子と会話するんだ。君の目は元通りになるよ」
君は私があがいたあといつも救済しようとする。君の助言はいつも正しいが、両親が迫っている。「女」のお前にかける金などないと。
君と私の願いはかなわず女子大に行くことになる。目が潰れた私はいいようにくだらない大人?というものやハイエナのような女に利用される。誰もが私を男扱いする。私は血を見るほどの努力をするが
「君は見てくれがよくない。この先行研究はなんだ?私に喧嘩を売っているのか」
「あの子はいい。美人だから。ああ。あの子はこの本さえ読めばいい。」
教授たちはケラケラと笑い、私の研究を丸写しし、「女」と寝る。ここは女子大だ。「大人」とはこういうものだと。
私は君が消えたと思う。もう大人になったからあの人格は消えたと。私は絶望して生きる。
ライナスの毛布を引きずり、傷ついた子供を抱えながら。
そして時間、空間、物質、力が全て制御され、人類の肉体、あらゆる感覚、思考がデジタルデータ化され、テレパシーが日常的になった未来。「大人」の奴隷となって頭のおかしくなった私は君の名を呼ぶ。私は泣きだす。
「ねえ君。ねえ『ユークリッド』どこへ行ったの?」「恋人の元に行きたいんだ。恋人の元に行きたいんだ。」
君は私に恋人の元に行くように言う。この椅子に座っていなさい。今呼んでくるから。
私は恋人の面影を階段の上から眺め満足する。
君はずっと私を見守っていた。よかった。と。
その晩、黄昏の夜『ユークリッド』は私を抱く。私に欲情しているのがわかり私は恐怖を覚える。彼は『光』ではなかったのか?彼の姿は見えないが、なぜ熱を持ち、人間の肉体を持っているのか?
冷たい彼の肌が、私を後ろから抱きすくめる。静かな熱が伝わり、私は怯える。
口づけをかわすが「そもそも彼は私の内的自己救済者人格ではなかったのか?」と思い裏切られた気分になり、ベッドに寝込む。
『ユーグリッド』は鬱状態で、ベットの中で、なぜか自分の苦しみを、量子のもつれ、テレパシーで私にうつす。彼は棺桶の中に住んでる。私は彼と一緒に寝込み彼の鬱状態を治そうとする。彼は苦しんでいるがなぜそうも理想的な「大人」として達観しているのか。なぜそんなにも熱がないのか。ひょっとして子供の頃から私が苦しい時苦しみを引き受けにやって来ていたのか。鬱に関する幾つかの本も読み、寝ている彼を湯船に運び、洗う。彼は放っておいてくれと抵抗し、結局はされるがままになり、またベッドの上で私に言う。彼は嫉妬している。私と恋人の仲に。
私は指輪を探している。恋人とのおまじないのために小指にはめた指輪を。
彼がそれをどこかへ隠し、もう一度私に口づけする。
「僕は君を育てた。僕は君をずっと見てきた。あの時僕と約束したのは君だろう?いつでも約束してきただろう。もう忘れてしまったの?君は水のようにこの僕を欲しているではないか。君と僕はつがいだ。僕は『宇宙の万能の力の使い』ではないが」
「君は僕のことを忘れるために生まれてきたんだ。僕は君を取り戻したかったのに。」
私にはこの金平糖のように甘い儚い天使のことが分からない。ずっとそばに。
「お願い。僕のことを忘れないで」「僕は君の『空想』じゃないんだ。」「君がいるから『僕』がいるんだ。」
私たちは星ぼしのかけら。この宇宙が生まれた時から。どれほど遠く離れていようとも。
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