ようこそ魔法学園

「うん。中々いい感じですね!」

鏡に映った自分の姿を確認すると、くるりとその場で一回転してみる。

が、足がもつれて転んでしまった。 

「わっ!?」

どっしーんとその場に盛大に尻餅をつく。

くっ、ただ一回転しただけで転んでしまう自分の身体能力の低さが恨めしいです!

「ユウト、もう入ってもいいかしら」

「あ、はい!もう大丈夫です」

ドアの外から聞こえたラミス先生の声に、急いで立ち上がった。

ついた埃を払うと同時、ラミス先生がガラリとドアを開けて保健室に入ってくる。

そして、おれの姿を上から下までじっと見つめた。

「……………」

「あ、あの、ラミス先生。せめてなにか言って下さい」

こういう時に無言になられるほど、不安になることってないですよ!

ラミス先生ははっとすると、無表情のまま告げた。

「ああ、ごめんなさい。……よく似合ってるわよ。ーーこの学園の制服」

「ありがとうございます!」

おれは、ぺこっと頭を下げる。

そのあと、もう一度鏡の中の自分の姿を見直した。

……よし、おれはこの魔法学園で、頑張っていくんです!

先程のラミス先生との会話を思い出しながら、決意を込めてぐっと拳を握った。




「おれが……魔法使いに?」

「ええ、そうよ」

ラミス先生は、真剣な表情でこくりと頷く。

とても、冗談を言っているようにも、おれをからかっているようにも見えません。

で、でも、ちょっと待って下さい!

話が急展開すぎて、ついていけません!

「そりゃあ、おれだって魔法が使えるようになりたいですけど……」

でも、それができないから、こうして途方に暮れているわけでして。

怪訝な顔を隠そうともしないおれに、ラミス先生は補足するように口を開いた。

「もちろん、すぐに魔法が使えるようになるわけじゃないわ。この学園で魔法について学んで、使うことができるようになるまで、頑張ればいいと言っているの」

「この学園で?」

「そうよ、言ったでしょう。ここは魔法学園だって。あなたと同じように、魔法を自在に使えるようになって、立派な魔法使いになりたい人達が、この学園に通っているの」

「で、でも、おれはこの世界の人間じゃありません」

異世界から来たおれがこの学園で学んでも、果たして魔法が使えるようになるんでしょうか。

「大丈夫よ。あなたには素質があるから」

「素質?」

「ええ。あなた、さっきホウキレースで一位を取ってたでしょう。間違いない。あなた、魔法使いの素質があるわ」

な、なん、です、と……。

「あの、今のもう一回言ってもらえませんか?」

「は?」

「あなたには魔法使いの素質があるって所です」

不思議そうな顔をしたものの、ラミス先生は素直に繰り返してくれる。

「あなた、魔法使いの素質がーー」

「よっしゃーーー!!!」

聞きました!?おれ、魔法使いの素質があるんですって!

こんなに嬉しいことはありませんよ!!

「ちょっと、まだ言ってる途中よ。そしてうるさい」 

「あ、すみません」

おれは、慌ててペコペコと頭を下げる。

「それで、どうするの?」

ラミス先生の問いかけに、おれは目を閉じて、じっくりと考えてみる。 

つまり、ラミス先生は、この学園で、もとの世界に戻れる魔法が使えるようになるまで、魔法を学べばいいっておっしゃっているんですよね。

……それなら、それに対するおれの答えは、一択です。

おれは目を開けると、ラミス先生の瞳をしっかりと見つめて言った。

「はい。ーーおれは、この魔法学園で、魔法を使えるようになりたいと思います」

「……そう」

ラミス先生は静かに頷くと、覚悟を問うように、おれをじっと見返してきた。

「……いっておくけど、結構厳しいわよ。それに、本当に魔法が使えるようになるっていう確証はない」

「はい。それでも、ここで、無事にもとの世界に帰れるように、頑張ってみたいんです!」

たしかに、なにも分からない異世界で、一人ぼっちになって、もとの世界に戻れなくて。

こんな状態で、本当に魔法が使えるようになるのかなって、大丈夫なのかなって、すっごく不安です。

でも、同時に今までにないくらいわくわくもしてるんです。

だって、ずうっと大好きだったけど、手の届かない所にあった魔法が、この世界には当たり前にあるんです。

そして、それを学べる、使えるようになるチャンスが、おれの目の前に転がってるんですよ?

そんなの、そのチャンスを、全力で拾いに行くしかないじゃないですか! 

それで、絶対魔法を使えるようになって、もとの世界に戻って、魔法は本当にあったってこと、証明してみせます!

「……あなたの覚悟は本物みたいね」

ラミス先生はかすかに頷くと、おれに向かって右手を差し出した。

「あなたの入学を歓迎するわ。ユウト」

「はい。よろしくお願いします!」

おれは、その手をしっかりと握りしめた。

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