1章 はじめまして異世界

ホウキレースは一等賞!

ざわざわとした喧騒が聞こえる。

ゆっくりと目を開けると、そこは大勢の人で賑わっていた。

足を動かすと、ジャリッとした感覚、砂がある。

ライン引きで引かれた白い線が五本、向こう側までまっすぐにのびていた。

………ってここ、運動場!?

おれ、たしか自分の部屋にいたはずですよね!?

その証拠に、左手にしっかりとお父さんにもらった本を持ってますし!

それなのに、いったいぜんたいなんで運動場に!?

「おーっと、飛び入り参加かー!?」

運動場の左側にはられたテントから、マイクごしの甲高い声が響いた。

飛び入り参加って………

おれは、きょろきょろと首を左右に動かした。

おれの右では、ホウキをもった人が四人、横一列に並んで、こちらをじっと見つめていた。

……え、飛び入り参加って、もしかしておれのことですか!?

い、いやでも一体、何の競争なんですか、これ!?

「どうぞ」

黒いマントを羽織った人から、ホウキを差し出される。

「え」

ほ、ホウキって……掃除でもすればいいんでしょうか。

訳も分からないままつい受け取ってしまったホウキをじっと見つめていると、再びマイクごしの声が響いた。

「さて、それではレーススタート!」

パンっというピストルの音と共に、皆が一斉にホウキにまたがりだす。

「え、え?」

いっ、一体何を?

呆然と見つめていた、次の瞬間。

おれは、自分の目を疑った。

なぜならーー

彼らの体が宙にーー浮いていたからだ。

そのまま、猛スピードでゴールに向かって突っ込んでいく。

「おやー?飛び入り参加者は何をしているんでしょう………ってなぜか滝のような涙を流しているー!?」

ああ、あれは魔法の王道第一位にしておれが見たかった魔法第一位………。

おれ、もうここで死んでもいいです………。

「飛び入り参加者はどうしてしまったのかー!?もう他の走者がゴールしてしまうぞー!?」

実況の声に、はっとする。

もしかして、おれも今なら飛べる!?

今まで何万回もホウキにまたがり、何万回も失敗してきたけど、全てはこの日のための前座だったんですね!

よーし!

おれは、本をしっかりと左腕に抱えた。

そして、ドキドキと高鳴る胸を抑えつけながらホウキにまたがるとーー

ぶわっ。

体が浮き上がり、気がついた時にはゴールに向かって一直線に風を切っていた。

す、すごい!おれ、今ホウキで飛んでます!

思っていたより地面に近いけど、本当に飛んでますよ!

「おー、すごい!飛び入り参加者が、どんどん他の走者を抜かしていくぞー!」

感動しているうちに、気づけば一番先頭を走っていた人を抜かし、ゴールテープを切っていた。

やったー!よく分からないけど、一位取れちゃいました!

「飛び入り参加者、一位でゴール!……ってどうしたー!?そのままフェンスに向かって突っ込んでいくぞー!?」

「あ、あれ?」

本当だったら、ゴールテープを切った所で止まらないといけないはず……なんですけど。

ホウキは止まるどころか、更にスピードを上げていく。

「わ、わわわわわ!?」

どどど、どうしましょう、このままだとフェンスに直撃します!!

ホウキを抑えつけようとするも、全く止まらない。

こ、このホウキ、全然言うこと聞きません!!

だめだ、ぶつかります!

フェンスが間近にせまり、反射的に目を閉じたその時ーー

「ムーブストップ!!」

可愛らしい声が聞こえたと同時、風を切る感覚がなくなる。

目を開けると、フェンスにぶつかるギリギリの所で、ホウキは止まっていた。

よっ、良かった……

ほっと息をついて安心したと思ったら。

「あ、あれ?」

なんか、またホウキが動き出す感覚がーー

「へぶしっ!!!」

ガッチャーン!!!

再び動き出したホウキによって、おれはフェンスに激突した。

そのまま、ホウキから地面にずり落ちる。

こ、これが、魔法が使えた代償なんでしょうか……。

おれは鼻血を垂れ流したまま、意識を手放したのだった。





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