お母さんは最強です!

翌日の土曜日、宿題をすべて終えたおれは、自分の部屋で、本にのっていたドラゴンの召喚魔法を試していた。

ワカメとコンブを床に置いて、円で囲んで……と。よし、これで準備は整いました!

ふっふっふっー、これでついにおれもドラゴンと友達になれますね。

まず最初はなにをしましょう、やっぱり背中にのせてもらって空を飛びたいですね!

夢のような未来を妄想しながら、円で囲んだワカメとコンブにまっすぐ向き合って立った。

よし、仕上げの呪文です!

いきますよー!

「ポンポンチキー!!!」

おれがそう叫んだ瞬間、ガチャリとドアが開いて、お母さんが姿を現した。

「な、なんていうことでしょう!ドラゴンじゃなくて、お母さんが召喚されちゃいました!?」

「あんたはまた何意味の分からないこと言ってるの………」

お母さんはため息を吐くと、ふと床に置かれたワカメとコンブに目をとめた。

「あー!!っていうかそのワカメとコンブ、なに勝手に使ってるの!!!」

しまった!冷蔵庫に入ってたのを、勝手に持ってきたんでした。

ここは、なんとか誤魔化さないと。

「そ、それよりお母さんはおれに一体何のご用で?」

お母さんはしばらくおれをじとっと見ていたけど、諦めたように目をつぶると、買い物かごをおれにずいっと押しつけた。

「これ、中にリストが入ってるから、近くのスーパーで買ってきて」

「了解!マッハで行ってきます!」

よしよし、上手くいきましたね。

「あ、あとワカメとコンブ、ちゃんと自分のお金で買ってきてね」 

「………はい」

さすがはお母さん、簡単に誤魔化されてはくれませんでした。  




ぎっしりと食材が入った買い物かごを持ったおれは、買い物リストとかごの中身を見比べた。

「ワカメとコンブも買ったし………買い忘れはありませんね」

確認し終えると、スーパーから商店街へ向けて歩き出す。

休みの日だけあって、商店街はいつもより人が多く、がやがやとにぎわっていた。

この商店街を突っ切るのが、家に一番近いんですよ。

「はぁ………でも、さっきの召喚魔法も結局失敗しちゃいました」

召喚されたのは、ドラゴンじゃなくてお母さんでしたし。

一体、おれはいつになったら魔法が見られるんでしょう。

魔法があることを疑ったことはないけど………

今まで試してきた何万という魔法が、成功したことは一度もない。

「やっぱり、おれには素質がないのでしょうか………」

空を見上げると、さっきまで明るかった空は、いつの間にか赤みがかっていた。

カラスが、群れをなしてカアカアと飛んでいる。

ああ、おれもあんな風に空を飛べたら………

目を閉じて、空を飛んでいる自分を想像してみる。

風をきって、鳥と一緒に、空を飛んで。

空から地上を見ると、絶景が広がっていてーー

うーん、考えるだけでワクワクします!

やっぱり、おれは魔法が見たい!魔法を使いたい!

「素質がないんだったら、つくればいいんですよね!」

帰ったら、もう一度部屋にある魔導書を読み返してみましょう。

おれは行きより軽い足取りで、帰路に就いた。




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