第73話 第二区巡り(下)

 

 第二区に来て二日目。お昼前に起きてきたニーニャが入浴を済ませると、彼女と俺はランチボックスを持ち、「散歩」という名の人探しに出た。


 俺は、ニーニャと並び、できるなら手も繋いで歩きたかったが、彼女がメイド衣装のためそれができない。彼女は、俺の少し後ろを歩いている。


 レンガで舗装された道の左右には、庭とも公園ともつかない緑が続いている。花々の上には蝶が舞い、たまにすれ違う人々は表情が柔らかく、高級な服に身を包んでいる。そこには、限りない豊かさがあった。

 それが、『ゴミ箱』という貧困に支えられた豊かさだとしても。


 二時間ほど歩いた後、俺とニーニャはランチにすることにした。

 二人並び、小さな噴水の横に置かれたベンチに座る。  

 歩いている間、ニーニャは俺の後ろにいたので気づけなかったが、いつもより、少し元気が無いように見える。


「ニーニャ、疲れが取れていないのかな?」


「あ、マサムネ。

 そうじゃないの。

 少し故郷を思いだしちゃった」


「ニーニャは、どこから来たの?」


「そ、それは……」


「ははは、ニーニャ、俺に気兼ねすることないんだよ。

 言いたくなければそうすればいい。

 言いたくなったら俺はいつでも聞くからね」


「マサムネ……。

 ありがとう」


 ニーニャは、それで元気が出たようだ。


「マサムネ、私、お腹すいちゃった」


 それはそうだろう。彼女は割とたくさん食べるからね。

 俺は、軽い素材でできたランチボックスを開ける。


「うわあっ!」


 ニーニャが歓声を上げるほど綺麗に盛りつけられたランチが入っている。筒とコップも入っているから、きっとお茶だろう。

 あのメイドさん、できる人だな。


 ニーニャと俺は、美味しいランチに舌鼓をうった。


 ◇


 ゆっくり歩いたのに、ヴァルトアイン家の別荘に戻るまで、三時間ほどしか掛からなかった。これは、輪をなしている各区画の一周が、お城に近づくほど短くなるからだ。 

 

 いつも人探しの後、きまって少し落ちこむニーニャだが、この日はとても明るかった。俺に割りあてられた部屋のリビングで、セリカ、ルチアと三人で楽しそうにお茶をしている。

   

 それを見て安心した俺は、シュテインの部屋に向かった。

 ノックしてから部屋の扉を開ける。


「マサムネ、さっそく試してみるかい?」


「ああ、ぜひ」


 俺たちが、試そうとしているのは、シュテインが作った魔道具だ。トランプに似た金属片に魔法陣が描かれている。これは、ある働きに特化している。


「じゃ、警備が薄いところからチェックしよう」


 俺とシュテインは、数枚の金属片を持ち、屋敷の庭に出た。


「こっちだよ」


 俺はシュテインと並び庭の木立を奥に入っていく。五分ほど歩いたところに、小さなお屋敷があった。


「ここは、おばあさまが、晩年住んでらしたんだ。

 おばあさまが亡くなってからは、管理人だけが住んでる」


 屋敷の裏口には古びた扉があり、シュテインはその前で立ちどまった。


「たしか、この辺りだと思うけど……。

 じゃ、いいかい?

 使い方を見せるからね」


 彼は、扉から一メートルほどの地面に、ちょうど扉の幅くらい離して二つの金属片を置いた。

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