第72話 第二区巡り(上)


 朝起きると、俺は一人で入浴を済ませ、食堂に向かった。公爵と夫人はすでに食事を済ませており、シュテインはルチアとセリカに庭を案内しているそうだ。


 俺はメイドに頼み、俺たちの客室に多めに朝食を持ってきてもらった。

 リビングのテーブルに二人で座り朝食をとる。窓を開けているので、外の風が優しく部屋の中を撫でていく。それがニーニャの赤い髪をふわりとなびかせる。

 毎日見ているのに思わずドキッとする。契約のせいだろうか。


 ニーニャは、朝まで俺に攻められ、少し疲れているように見えたので、ベッドで二度寝させる。俺は下に降り、メイドたちが部屋に入らないように念を押しておく。ついでに昼食を外で食べるからと言って、ランチボックスをお願いする。

 笑顔が魅力的な中年のメイドさんは、それを快く引きうけてくれた。


 昼前まで時間ができたので、広大な庭や木立を散策する。途中、幅が二メートルくらいの小川があった。橋の上から見下ろすと、澄んだ水の中に水藻の花が咲いており、小魚だけでなく五十センチはあろうかという大きな魚も泳いでいる。

 恐らく、ここでは誰も魚を獲ったりしないのだろう。


「マサムネ、やっと起きたの?」


 声がした方を見ると、セリカ、ルチア、シュテインが立っていた。


「おはよう、みんな。

 シュテイン、あの部屋、すごく居心地がいいよ」


「それは良かったです。

 何か困ったことはない?」


「いや、特にないよ。

 今朝なんか、部屋まで朝食を持ってきてもらったし、お昼にはランチボックスを頼んである」


「旦那様、それはちょっと……」


 ルチアが呆れている。


「いや、どんどん我儘わがままを言ってね。

 その方がボクもメイドたちも嬉しいから」


「昼前からニーニャと第二区を回るつもりだけど、みんなはどうする?」


「そうね、私とルチアは、今日は部屋でまったりするわ。

 明日から手伝うから」


「そうだ、シュテイン、頼んでたものはもうできてる?」


「一応完成しているけど、ぎりぎりまで改良したいからね。

 使うのは明日以降だよね?」


「ああ、そうなると思う。

 念のため明日の昼過ぎに渡してくれるかな」


「いいよ」


「マサムネ、何を頼んだの?」


「いや、セリカ、今は知らない方がいいよ。

 全てが無事終わったら話すから」


「そう? 

 じゃあ、その時でいいわ。

 あんたのことだから、どうせ無茶するんだろうけど、ほどほどにね」

 

「心配してくれてありがとう」


「ご主人様、お気をつけて」


「じゃ、マサムネ君、また後でね」

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