第69話 シュテインの別荘
次の日、俺たちは朝から第二区へ向かった。
朝、シュテインと会った時、彼は下を向いてまっ赤になっていた。さすがに昨晩の事を恥ずかしく思っているらしい。
屋敷前に迎えに来た、紋章付き二頭立て馬車に乗り、ニーニャ、セリカ、ルチア、シュテイン、俺の五人は、第二区へと向かった。御者はシュテイン家の使用人だ。
城門でのチェックは他の所に比べ遥かに厳しく、ニーニャとルチアは、女性の騎士から身体を探られたそうだ。セリカ、シュテイン、俺は通行証がミスリル製だからか、そのまま通された。
シュテインによると、そこまで調べられるのは、初めて第二区に入るメイド、従者だけらしい。
第二区は、居住区というより、公園区と言った方がよいほど緑が多かった。所々に石造りの小さな砦のようなものが建っている。
住居はほとんど全部がお城と呼べるようなものばかりで、どこからどこまでが一つの敷地かわからないほど、それぞれの屋敷が離れていた。
俺たちが乗った馬車は木立の中を通りぬけ、巨大な建物の前で停まった。セリカの屋敷もお城みたいだったが、シュテインの屋敷は、その三倍はあった。これで別荘だというのだから、この国の身分による格差は恐ろしい。
シュテインに続き屋敷へ入ると、吹きぬけの玄関ホールだけで、俺とニーニャの屋敷が入りそうだった。
これだけの広い空間を取ろうとすると、建物にはきっと魔術的な仕掛けがしてあるに違いない。地球の建築からいうと、明らかに柱の数が足りないからな。
立ちならぶメイド、執事の間を、シュテインがスタスタ歩いていく。ルチアがびくびくしているが、さすがの俺もちょっと引きぎみだ。セリカですら、少し緊張しているのが分かる。
なぜかニーニャだけは、平気な顔をしていた。
シュテインは、三階の一室に俺達を案内した。意外なことに広さはセリカの部屋とそう変わらなかった。窓も無い。
「ここは、お付きの人や、用があるお客さんに対応する部屋なんだ。
小さな頃は、ここで家庭教師からいろいろ習ったんだよ」」
彼はそう言いながら、奥にある両開きの扉を開ける。教室二つ分くらいの部屋があった。
「ここは、友人が来た時に使う部屋だね」
シュテインは、さらにその部屋を横切り、奥の扉を開く。その奥には、本でしか見たことのないようなキラキラした部屋があった。
広さは、小さな体育館くらいあるだろう。天井も高い。
窓際の一角は、カーテンが垂れており、その向こうに天蓋付きベッドが見える。部屋全体がオフホワイトを基調色として金色と銀色があちらこちらに配してある。それが得も言われぬ上品さを醸しだしている。
俺は、なぜか『ゴミ箱』で、たくましく生きている子供たちの事を思いだしていた。
「ここが、ボクの部屋だよ。ゆっくりしてね」
隙間風が吹く木造家屋で育った俺にとり、それは難しい注文だ。
「なかなかいいじゃない」
ニーニャは、メイド服姿で窓際の椅子に座ると外を見ている。
俺たちも彼女にならい、窓際の椅子に座った。
「この窓はね、ボクが工夫したんだよ」
シュタインがワンドを取りだし詠唱すると、透明なガラスだと思っていた窓が全て消える。木立を抜けた気持ちよい風が部屋に入ってくる。
「これ、すごいわね!」
セリカが感心している。
「物理防御の魔法陣を作ってるとき、たまたまできたんだ」
シュテインが窓の四隅を指すと、天井と床に魔法陣が描かれていた。
「シュテイン。あなた、これは秘密にした方がいいよ」
セリカが、真剣な表情で言う。
「でも、防御力はほとんど無いんだよ」
「そうだとしても、こんなの知られたら、お城で働かされちゃうわよ」
「ははは、それは無いと思うよ」
シュテインは、自分の部屋だからか、いつもより少し肩の力が抜けているように見える。
この後、セリカ、ルチア、ニーニャ、俺は今日から泊る部屋に案内された。
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