第40話 貴族のお嬢様

 

 セリカは、闘技場での言動からは信じられないほどお行儀が良かった。(ある一点を除く)

 話を聞くと、彼女の実家は侯爵家で、屋敷が第三区にあるという。これには皆が驚いた。

 セリカの実家は、元々彼女が闘技会に出場することに反対であり、その闘技会で不名誉を受けたことを非常に重く見て、半分勘当のような形になってしまったらしい。

 

「わざと負けてやった方が良かったか?」


 一応、尋ねてみたら、もの凄い剣幕で叱られた。

 美少女の激怒、半端なく怖い。


 あと、話は変わるが、ルチアが大金持ちになった。

 今までコツコツ溜めていた全財産を、俺の勝ちに賭けたらしい。俺のオッズってどんだけ高かったんだよ。

 まあ、ぽっと出のよそ者が勝つなんて、誰も想像してなかったんだろうな。

 その上、俺って魔術が使えないし。


 これからどうするかルチアに尋ねてみたが、メイドの仕事を続けたいとのことだった。大体、彼女は俺が作ったメイド服に頬ずりするくらい、メイドの仕事を愛しているようなんだ。


 そうそう、セリカだが、何と俺より一つ上の十八才だった。この世界の女性は、日本の基準で考えると、年齢よりやや小柄だから、年が推測しにくい。そうかと思うと、二十くらいだと思ってたルチアなんか、俺と同じで十七になったばかりだった。

 ニーニャといい、異世界人の年齢は、まさしく謎だ。


 どこが気に入ったのかしれないが、ルチアとセリカが非常に仲が良い。どのくらい仲が良いかと言うと、二人でお茶しながらおしゃべりしたり、二人でお風呂に入っている。そして、極めつきは、ルチアの寝室から毎晩二人で俺とニーニャを覗いている。


 貴族のお嬢様が、それでいいのかね?

 ルチアと一緒に庭の花に水をやっているセリカに聞いてみた。


「セリカ、君、凄くお行儀がいいよね」


 なぜか、セリカではなくルチアが誇らしげに大きな胸を張る。


「それはそうよ。小さな頃から厳しくしつけられてきたんだから」


 鈴を転がすような美しい声でセリカが答える。


「じゃ、なんで毎晩俺たちを覗いてるの?」


 ルチアは何の反応もしなかったが、セリカは青い顔をしてブルブル震えだした。


「わ、私、そんなことやってないっ!」


 セリカは、俺が気配を読めるとは知らないからな。


「昨日だって、俺がニーニャを撫でていたら、食いいるように見てたでしょ?」   


「あんたが、ニーニャのお尻を撫でてるところなんて見てないっ!」


 いや、今のでバレバレだから。


「セリカ、ご主人様は、『お尻を撫でていた』なんて言ってませんよ」


 さすがに見かねたルチアが指摘した。


「ああっ!?」


 セリカが口を押えて叫ぶ。そして、なぜか、「いやいやっ」と言いながら、しゃがみ込んでしまった。

 見ると、手に持ったジョウロとは違う所から『水』が……。

 

 あれ? またやっちゃった?


 その後、俺はマーサにもの凄く叱られた。でも、これって、俺のせいじゃないよな?


――――――――――――――――


いえ、やっぱり、君のせいです、マサムネ君。

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