第41話 闘技会の賞品


 闘技会が終わって七日後、つまり、セリカがうちに来て七日後、俺たちの屋敷を顔見知りの人物が訪れた。闘技会で決勝戦の審判をした、五十歳くらいの男性だ。

  

「マソムネさん、お久しぶりです」


「はい、お久しぶりです。ええと……」


「ウブントゥと言います。

 素晴らしい試合ありがとうございま……す」


 彼の顔が引きつる。ちょうど、俺たちの横をセリカが通りかかったからだ。


「あら、ウブントゥじゃない。

 今日はどうしたの?」


「せ、先日の優勝賞品を持ってきました。

 セリカさんのは、お屋敷の方にもうお届けしましたよ」


「ありがとう。

 ここへ持ってきてくれたら良かったのに」


「それが、セリカ様がここにいらっしゃるとは知らなかったもので」


「まあ、いいわ。

 マサムネの賞品、見せてちょうだい」


「ああ、『マソムネ』さんの賞品ですね。

 こちらが目録です」


 彼は、巻いていた羊皮紙のようなものを広げた。

 セリカが声に出してそれを読む。

「ワンドか武器の作成と。

 これは前回と変わらないわね。

 あと、第三区までの特別通行証。

 これも同じね。

 あとは……な、なによこれっ! 

 十万ディールってどういうこと!? 

 前回までは、五万ディールだったじゃない!」


「ええ、今回から制度が変わり、そうなりました」


「そ、そんな……」


 セリカがこちらをにらむ。

 いや、そんな目をされても、俺にはどうしようもないぞ。


「それだけあったら、買いたいものが買えたのに……。

 マサムネの馬鹿っ!」


「いや、俺のせいじゃないだろう」


「あんたのせいに決まってるじゃないっ! 

 この……」


 まっ青になったセリカがプルプルしている。


「おい、セリカ、大丈夫か?

 どうしたん……だ」


 「だ」のところで、俺は彼女の下に広がる『湖』に気づいた。

 とっさの判断で大声を上げる。


「ルチア! 

 俺、お茶こぼしちゃった!」


 部屋にルチアが入ってくる。気転がきく彼女は、すぐに事態を察したようだ。


「ご主人様、こういつもお茶をこぼされると、さすがに私も怒りますよ」


 そう言うと、彼女は雑巾で『湖』を拭いていく。セリカはオロオロしているだけだ。


「俺も手伝おうか?」


「「いいえ、結構です!!」」


 なぜか、ルチアとセリアの声が揃う。


「わ、分かったよ」


 俺たちの騒動に取りのこされた感のあるウブントゥは、武器かワンドと交換する札、両替商に見せる札、そして金色の通行証を置くと帰っていった。

 帰りがけに、準決勝で俺がゴーガスをコテンパンにしたことに対して礼を言われた。殺された審判は、彼の身内ということだった。

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