第35話 闘技会5

 

 次の第三試合も対戦相手は魔術師で、第二試合と同じような展開で俺が勝った。第二試合で対戦したドゥカーリオの方が、力は上だったと思う。


 俺には気になる事があった。第二回戦からは、去年の優勝者がシードで参加しているはずなのだ。彼女の控室は俺たちとは別なので、その対戦相手は一人だけ選手控室を出ていく。

 ところが、それ以外の時にも一人だけで選手控室を出ていく選手がいるのだ。

 そして、どちらの場合も、選手が控室に戻ってこない。


 去年の準優勝者が出ていることもあり得たが、よく考えると去年はミーシャが準優勝だ。控室には選手が奇数人残るはずが、なぜか偶数人いる。

    

 次の対戦で、その疑問に答えが出ることになる。


 ◇


「準決勝、第一試合。

 第五区マソムネ対『離れ』ゴーガス」


 試合会場に入ってすぐ、立ちすくんだニーニャがブルブル震えだした。


「ニーニャ、どうし……」 


 どうした、と続けようとして、俺は驚きで言葉を失ってしまった。

 対戦者として開始線のところに立っているのは、まがうことなき『火炎団』の大男だった。


 頭の毛は半分無くなり、顔の左半分は醜く焼けただれている。焼けただれた方の目には黒い眼帯を掛けていた。右手には巨大な曲刀、左手には幅広の長い直剣を持っている。


 震えているニーニャをつき添い人の席に座らせると、俺は開始線に立った。


「殺す」


 低くうめいた男の右目は、まっ赤に血走っており、それが俺を睨みつけていた。

 なかなか迫力がある。

 まあ、じんちゃんほどではないけどね。

 俺は静かな声でこう言った。


「俺の前に出てこなければ、そのまま生きられたものを」


 それでぶちぎれた男は、巨大な曲刀を叩きつけてきた。

 それを紙一重で避ける。


「ゴーガス選手! 

 まだ、試合は始まっていない! 

 開始線に戻っ――」


 審判の喉を、ゴーガスの直剣が貫く。

 首の後ろから剣先が出ているから、審判は即死だろう。

 大男が振りまわす剣を、俺は紙一重でかわしていく。

 三十回ほど剣をかわすと、さすがにゴーガスの動きが鈍くなってきた。

 俺の後ろには赤い場外線がある。

 あと少しでも下がれば、こちらの負けだ。


 剣では再びかわされると思ったのか、ゴーガスは両手の剣を投げすてた。

 俺も両手のダガーを手放す。覆いかぶさるように攻撃してくるヤツをかわし、たいをくるりと入れかえると、空中でその左手に足を絡める。

 ヤツは思わず腕を引いた。

 その動きは、こちらの思うつぼだ。


 ゴキリ


 俺の腕ひしぎ逆十字がまる。

 ためらわず、瞬時に左手をへし折る。


 ボキッ


「ぐあっ!」


 ゴーガスは、ちょっと左手をかばうぶりを見せたが、すぐに右手を伸ばしてくる。先ほどと同じ要領で、腕ひしぎ逆十字が再び極まり、ヤツの右手が破壊される。


 ゴーガスはそれでも諦めず、凄い勢いで頭から突進してきた。

 俺はそれをさっとかわすと、後ろから思いきりヤツの股間を蹴りあげた。


「ピギッ」


 奇声を発し、巨体の動きが停まる。


「これで、お前はもうどこへも『行けない』な」


 ゴーガスが俺の言葉を聞いていたかどうかは不明だ。

 ヤツはやや内股の姿勢で、前へズシーンと倒れた。


 俺が右手を挙げる

 会場には爆発するほどの歓声が響いた。 

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