第29話 屋敷での生活(下) 


「ぬるぬる風呂」から上がると、身体を乾かす時間が必要だ。

 ニーニャを全身が映る大きな鏡の前に立たせる。 


「マ、マサムネ、恥ずかしい」


 彼女は、自分の顔を手で隠そうとする。


「ニーニャ、綺麗だよ。

 それに手で触ると、ぬるぬるが上手く粉にならないよ」


 俺が言うと、彼女は手を顔から離した。

 その代わり、上気した顔できつく目を閉じている。


 その間に鏡に映る彼女の身体を観察した。

 赤い髪が流れるように白い体に巻きついている。その流れの一部が美しい曲線を描いて盛りあがり、その先端から小さなピンク色の乳首が見えている。


 まだ幼さを残した腰のラインは、故郷で山の頂きから見た、優美な山々のラインを思いおこさせた。そして、腰から膝にかけての曲線は、白磁の壺を彷彿ほうふつとさせる。 

 膝から足にかけてのきゅっとしまった部分に、今すぐ唇を当てたくなる。


 ニーニャ鑑賞をしている間に、彼女の身体を覆ったぬめぬめがキラキラ光る綺麗な粉になっていた。後はこれを体から払いおとすだけだ。


 俺は、ニーニャが浴室に持ちこんでいた道具を手に取った。

 それは黒い帯のようなもので、たくさんの袋が並んでおり、そこにいろんな形の刷毛が差してあった。

 まず幅広な少し硬い刷毛を手にとる。

 ニーニャの髪や体についた粉を大まかに掃いていく。


「少しちくちくする」


 ニーニャは言ったが、それほど嫌な顔はしていない。

 大まかに粉が取れると、次は習字の大筆のようなもので、残った粉を落としていく。くすぐったいのか、ニーニャは時々クスクス笑っていた。


 最後に、柔らかい小筆で、おへそのように奥まったところや敏感なところをなぞっていく。ニーニャは自分の力で立てなくなり、俺の身体にすがりついている。

 乳首の先をそっと丁寧になぞると、「ううんっ」と声を上げ、身体を完全に預けてきた。


 立てなくなった彼女を、床に敷いた大きめのタオルの上に横たえる。額、頬、唇、耳、のどを小筆で丁寧に掃く。


「マサムネ、キスして」


 いつものようには彼女の要求に応じず、身体の残った部分を小筆で掃く。


「あっ、いやっ!」


 ニーニャの身体が何度も反る。甘く切ない彼女の香りが粉の柑橘系の香りと混ざり、桃のような、あるいはライチーのような芳香が立ちこめた。 

 彼女がほとんど動かなくなると、最後にそっと唇を合わせる。

 深い口づけに激しく体を震わせると、ニーニャは完全に動かなくなった。


 自分の身体についた粉を払おうと立ちあがった俺は、廊下を忍び足で去っていく人の気配を察知した。

 それは、間違いなくルチアのものだった。

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