第16話 火炎団3


 馬賊『火炎団』のアジトは、城壁がある町から意外なほど近くにあった。

 城壁とアジトの間に丘があるため、夜でも灯りが見つかることはない。用心深い彼らは、夜間には外で灯りをつけない掟を作っており、それを守らない者は容赦なく始末された。


 居住区は、丘の崖部分にあるいくつかの洞窟だ。入り口は狭いが、中は意外なほど広く、複数の洞窟が奥にある大洞窟と繋がっている。一つの入り口から敵が侵入したとしても、彼らにはいくらでも逃げ道があった。

 

 今、その大洞窟へ二人の団員が入ってきた。片方は、肩に獲物をかついでいる。大洞窟中央で、火の番をしていた男が立ちあがる。


「おう、ドロスか。

 首尾は、どうだった?」


「見ての通り、成功よ。

 こいつから情報をありったけ聞きだすぜ」


「女だな。

 すげえ髪だ。

 終わった後は、女部屋に入れとけよ」


「ああ、だが一週間は俺が使わせてもらうぜ」


「しょうがねえヤツだな。

 遊びすぎて、壊すんじゃねえぞ」


「お頭は、いるかい?」


「ああ、もう帰ってるぞ」


 ドロスは少女をかついだまま、大洞窟の奥へ向かう。そこは、大洞窟からさらに奥へ続く、小洞窟の入り口があった。 


「お頭、ドロスです。

 ただ今、帰りやした」


「おう、入れ」


 扉がわりなのだろう、入り口の天井から垂らした布の向こうから、野太い声が聞こえてきた。

 ドロスは垂れ布の端をめくり、中に入った。

 そこは十メートル四方くらいの空間になっており、床には茶色い毛皮が敷きつめてあった。部屋の中央には凝った細工の丸テーブルがあり、その上にはカンテラやボトル、グラスが置いてあった。

 席についた男は二メートルはあろうかという引き締まった巨体で、頭の豊かな茶色い髪が、まるで魔獣のたてがみのようだった。


「東の『ゴミ箱』を調べたついでに、こいつを捕まえやした」


「そうか。

 もう情報は聞きだしてあるか?」


「いえ、これからです」


「その髪なら、奴隷として高く売れるかもしれねえ。

 傷つけるんじゃねえぞ」


「へい」


「おい、お前。

 これで、顔を綺麗にしろ」


 火炎団の頭は、懐から布を取りだし、それにグラスの酒を振りかけると、パメルの足元に放った。


「へい」


 小柄なパメルが布を拾い、自分の顔を拭こうとする。


「馬鹿野郎! 

 てめえの顔拭いてどうすんだ。

 女だよ、その女の顔を拭け」


「へ、ヘイ、すいやせんでげす」


 パメルが、布で少女の顔についたススを落とす。


「お、おい、なんだっ!」


 頭が大声を上げる。 

 汚れのとれた少女の顔は、驚くほど美しかった。


「こりゃすげえ。

 この髪でこの顔なら五万ディール、いや、十万ディールでも売れるかもしれねえ。 

 ドロス、こいつをここに置いて、おめえは出てけ」


「か、頭、こいつは俺の獲物で――」


「お前のもんじゃねえ、俺のだ。そうだろう?」


 大男の猫なで声に、ドロスが首をすくめた。


「……へ、へい。

 そうでやす」


「おめえらにも、手伝わせてやるよ。

 おい、ドロス。

 あれを持ってこい」


 頭は自分の指を横にして、歯の間にくわえる仕草をした。


「へ、へい」


「パメル、おめえは、こいつの身体をしっかり洗っとけ」


「分かりやしたでげす」 

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