第14話 火炎団1


 俺とニーニャが同じ部屋に泊まると聞くと、大男ミーシャは、ものすごく嫌がった。俺を叩きだそうとしたぐらいだ。

 まあ、古武術の技で軽くひねっておいたけどね。彼は、ニーニャが左手中指に刻んだ契約印けいやくいんを見せると、涙を流して悔しがった。

 リーシャばあちゃんによると、東の『ゴミ箱』でニーニャは凄く人気があるんだそうだ。


 俺たちが泊まった部屋にはベッドが二つあった。一旦、それぞれのベッドに入ったが、ニーニャは、すぐに俺のベッドへ潜りこんできた。

 そして、環境が変わったことが何かの刺激になったのか、これまでになく情熱的に俺の唇を求めた。

 前のように唇の周りが赤くなるのを心配したが、途中からはニーニャ以上に夢中になってしまった。

 朝になり、ニーニャの唇を目にしたミーシャが、顔に絶望を浮かべ膝をついた。


 ニーニャは、さっそく人探しを開始した。東の『ゴミ箱』は、かなり規模が大きいく、道も複雑に入りくんでいた。

 ニーニャに気づいた子どもたちが、わらわらと集まってくる。


「ニーニャ姉ちゃん、帰ってきたの?」

「一緒に遊ぼう!」

「ウチに来て!」


 小さな子どもが、口々にはやし立てる。

 ニーニャは、「後でね」と言って、子どもたちを置いて立ちさる。そういうことが何度かあった。彼女は、その度に残念そうな顔をしていた。俺がニーニャの手をとると、少しだけ笑顔が戻った。


 ◇


 三日目、買いものがあったので、人探しは昼過ぎまでにした。

 俺たちの後をつけたのか、子どもたちが大挙してリーシャばあちゃんの家へ押しかけたのだ。しょうがないから、今日の午後は、ニーニャが子どもたちの相手、俺が買いだしとなった。本当はニーニャと二人で買いものがしたかったんだけど、仕方がない。


 いくつか買いものを済ませ、リーシャばあちゃんの家に戻ってくると、まだニーニャは帰っていなかった。

 夕告鳥ゆうつげどりが鳴きだすと、さすがに心配になってきた。俺がニーニャを探しに行くと言うと、リーシャばあちゃんに止められた。子どもたちは、暗くなる前には必ず帰ってくるらしい。 

 

 暗くなりかけた頃、扉が激しくノックされた。外で子供たちの声がする。

 リーシャばあちゃんが扉を開けると、七、八人の子供が、わらわらと飛びこんできた。なぜかみんな泣いている。

 泣き声の合間から聞きだすと、ニーニャは赤い毛皮を羽織った二人の男に連れさられたらしい。

 俺は、かーっと全身が熱くなったあと、なぜか思考だけ冷静になった。

 身体の奥から、絶えまなくムラムラが湧いてくる。魔術契約の効果に違いない。

 鍛冶をやっているミーシャの仕事場からいくつか道具を借りてから、リーシャばあちゃんの家を出ようとした。

 ミーシャの大きな手が俺の腕をつかむ。


「おい、人を集めるまで待て」


「ミーシャ、いいか。

 絶対、誰にも俺の後を追わせるなよ」


「な、なんでだ?」


「今の俺は、危険だからだ。

 追ったヤツは、確実に死ぬ」


 自分でも冷たいと感じる声を聞いて、ミーシャはやっとその手を放した。

 俺は後ろも見ず、立ちこめつつある宵闇の中へ駆けだした。

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