第13話 東の『ゴミ箱』


 マーサさんは、能力者だった。

 ただ、その力が弱いのと、スキルの発動に時間が掛かるので、『ゴミ箱』に来たそうだ。

 彼女の能力は、金属を変形させるもので、効果が出るまで少し時間が必要だそうだ。


 『ごみ箱』の住人は日常使うものを自分の手で作ることが多い。そして、壊れても直してまた使う。

 そして、自分の力で直すことができないとき、マーサさんの出番となる。


 仕事の依頼は意外なほど多く、そういう理由で、マーサさんは、『ごみ箱』の中では他と比べ豊かな暮らしができているそうだ。

 その豊かさをねずみが狙ったんだろうけどね。


 ニーニャは、ここのところ元気がない。西の『ごみ箱』では、探している人は見つからないと思いはじめたようだ。

 彼女を元気づけるため、ある提案をしてみた。


「ニーニャ、東の『ゴミ箱』を見に行かないか?」


 彼女は少し考えていたが、やっと頷いた。


「そうね、次の事を考えましょうか」


 ニーニャの表情が明るくなり、俺は少し安心した。


 ◇


 次の日、俺とニーニャは、東の『ごみ箱』へ向かった。

 途中、北の集落を通ったが、それはひどいあり様だった。半分以上の家が焼け、怪我をしている者がたくさんいた。

 ニーニャが、自分の住んでいた場所を教えてくれたが、そこには焼けこげた瓦礫がれきがあるだけだった。

 彼女がそのことを気にしていないのが、せめてもの救いだった。


 城壁を回りこみ、東の『ごみ箱』へとむかう。

 そこは、意外なほど普通の集落だった。道に汚物も落ちていないし、家々も、しっかりしたものが建っていた。ただ、豊かさは、やはり感じられなかった。小さな子供は、ほとんど裸同然で走りまわっている。庭がある家も無かった。

 

「知りあいのところに行ってみる」


 ニーニャはそう言うと、どんどん集落の奥へと入っていった。

 彼女は、ことさらしっかりした造りになっている、ある家の扉をノックした。

 家の中からは、カンカンという金属を打ちあわせるような音が聞こえている。どうやら、この家は鍛冶を生業なりわいにしているようだ。

 

「誰だい?」


 しわがれた声が聞こえたあと、扉が開く。そこには、何歳とも知れない、しわくちゃのおばあさんが立っていた。


「リーシャばあちゃん、お久しぶり」


「おや、誰かと思えばニーニャかい!

 久しぶりだねえ。

 さ、お入り」


「もう一人いるんだけどいい?」


 小さなおばあさんは、俺の方をチラリとみた。その眼光は鋭く、まるで俺のじいちゃんみたいだった。


「ふん、頼りなさそうな男だねえ。

 まあ、いい。あんたも、お入り」


「お、お邪魔します」


 家の中は思いのほか広く、家具もしっかりしたものが揃っていた。ただ、やはり床は無く、地面がむきだしだった。

 部屋には扉が二つあり、開けはなたれた方からは、カンカンという音が聞こえてくる。ここで聞くと、かなり大きな音だ。


 俺とニーニャは、しっかりした造りのテーブルに着いた。おばあさんは、まるで用意してあったように、お茶を出した。


「北は、えらいことになったんだってね?

 様子を教えておくれ」


 ニーニャが、北の『ゴミ箱』であったことを詳しく話した。


「やっぱり、『火炎団』かい。

 ありゃどうしようもないやつらだね。

 これに味をしめなきゃいいけどね」


 おばあさんは、やれやれという感じで首を左右に振った。


「あんた、家はどうなった?」


「黒こげになっちゃった。

 西のマーサのところに泊めてもらってたの」


「そうかい。

 泊る場所を決めてないなら、ウチにいるといいさ。

 宿泊代は、そうさね、さっきの情報でいいよ」


「四、五日お世話になるつもりだから、明日からはお金を払うね」


「ほほほ、ミーシャは頑として受けとらないだろうけどね」


 その時、開いた扉から、茶髪をドレッドヘヤにした、ごついおじさんが出てきた。浅黒い肌が、筋肉でぱんぱんに膨らんでいる。特に右肩の筋肉はバレーボールほどの大きさがあった。


「俺がなんだって?」


 ええっ! あなたがミーシャ? 名前と姿が一致しないな。

 おじさんは、心の声が聞こえたように俺をジロリと見た。


「あ、ニーニャちゃんじゃないの。

 こっちに来てごらん」


 おじさんは、ニーニャに気づくと、微笑ほほえみを浮かべ猫なで声を出した。

 そんなの、あんたにゃぜんぜん似合わねえよ。心の中で突っこんでおいた。

 なぜか、ニーニャは素直におじさんの側へ行く。おじさんは、これ以上ない程の笑顔でニーニャの頭を撫でている。


 こうして、俺とニーニャは、東の『ゴミ箱』でリーシャ、ミーシャ親子の世話になることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る