第3話 無能力
俺は
ここは、『ボナンザリア』という世界で、魔術により『トリアナン』という王国の城に異世界召喚されたらしい。
この『異世界召喚』というのは、他の世界から何かを呼び出す術のことだそうだ。
簡単な事情説明の後、目が痛くなるほどキラキラの服を着せられ、広い部屋に連れていかれた。
部屋の前には、いわゆる玉座があるから、王が下々に命令を下す場所かもしれない。
寝起きが悪い俺は、少しぼーっとして、あくびが止まらなかった。
「これより、『玉読みの儀』をとりおこなう」
玉座の横にいるちょびヒゲのおじさんが、声を張りあげる。
白いローブを着た、すごく太ったおじさんが、俺の方へよっこらよっこら歩いてくる。彼は、バレーボールくらいの透明な玉を両手で掲げていた。
俺のすぐ前まで来た太っちょおじさんが、何かブツブツ言うと、透明な玉と俺の体が白い光で繋がった。おじさんの目が、大きく見ひらかれる。
「こ、これはっ!」
おじさんは、それだけ言うと、黙りこんだ。
「どうした、ブッターナ?」
玉座に座った王様が、太っちょおじさんに声を掛ける。だけど、ブッターナとは、ぴったりの名前だな。
「そ、それが……」
それだけ言うと、太っちょおじさんは、また黙りこんだ。
「ブッターナ、早う結果を言わぬか!」
玉座の横に立つ、白ローブのちょびヒゲおじさんが、きつい口調で言った。
「そ、それが……無いのです」
「何が無いのじゃ?」
「ま、魔力です。この少年には、魔力がありません」
「な、なんじゃとっ!」
玉座から立ちあがりかけた国王が、青い顔をしている。その青い顔が赤く変わると、すっくと立ちあがり、大きな声でこう言った。
「この世界を変えるほどの能力者を召喚する、そう言うたのは、お主じゃぞ、ブッターナ!
一体、何をしておる! お主は、謹慎じゃ!」
「お、お許しを! もう一度、もう一度だけ召喚魔術を!」
二人の騎士が、おじさんを両脇から抱え、部屋から連れだした。
あの人、ちょっと哀れだね。
「さて、問題は、お前じゃな。
無能力者と分かったからには、ここに置いておくわけにもゆかぬ。宰相よ、こやつは適当なものを持たせて城から放りだせ」
おいおい、自分らで召喚しておいて、それってひどくないか? まあ、こんな居心地悪そうな場所には長居したくないけどな。
こうして、こちらの世界に着いて早々、俺は城から追いだされるはめになった。
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