17話(覚悟のいる描写あり)



 ・・・ただ。

 満たされるのを求め続ける心の何処かで、グレンはなんとなく気づいていた。

 ことに。


 それでもグレンは止まらない。止められない。

 長年燻っていた悲願の達成。それをなんとしてでも叶えるために。



 すでにこの身は狂気の奥底だ。あの日を堺に、弱い恋心とともに消し去ってしまって二度と這い上がることはない。





 だからこそ――――何としてでも、今度こそ。


 自身は掴み取るのだ。その手に、







             ✴  ✴  ✴








 思考を切り替えるために閉じていた瞼を開ける。そうすれば眼前にはいつの間にか一人の者が静かに頭を垂れて跪き、グレンの言葉を今か今かと待っていた。

 黒い外套マントを羽織り目の下ギリギリにまでフードを被っている。おかげで隠れているので顔は見られないものの、体格からして成人した男性のようだ。なぜならかすかに裾から見える片方の手は骨ばってて太く、いくつかの血管がビキビキと浮かび上がっていたから。


 グレンはしばし目の前の男に視線を向けていたものの、すぐにそらしてただ一言告げる。

「…………報告を」


 そうすれば外套の男は一度だけ頭を大きく下げてから立ち上がり、手を胸に当てると話を始めた。以下はその説明の大まかな内容である。



 曰く。今回の襲撃スタンピードは成功、狂化したモンスター共は城下町の殆どを破壊して互いに自滅。

 曰く。城下町の建物は貴族街を残してほぼ全てが倒壊、瓦礫と火災による炭の山と成り果てたこと。

 曰く。城下町に住まう住民の多くが狂化モンスターの餌・あるいは娯楽のとなり、骸の山になったこと。

 生き残る者は傀儡の貴族たちを残していないこと。



 そして。

 ―――あらゆる不感情が黒い魔力マナの残滓となり、王都を今でも残留していること。





 グレイはその話を静かに聞き入っていたが、最後の件についてはピクリと反応を示した。そして、

「…………量は、どのくらい見られた」

 と言葉を返したのだ。

 目を見張りつつも黒外套の男は話を続ける。そうしてもたらされたある吉報に、

「……………雌雄を決する時、か」

 とグレンはその瞳に煮えたぎるような歓びを浮かべたあと。









 

「整えてやろうではないか。このワタシが今度こそあのシホウを手に入れる、そのための最上にして最高の舞台を」

 その手に魔力をともして告げた。その顔に残忍な笑みを、嘲笑を見せながら。

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