16話(覚悟のいる残酷描写あり)


 ―――おさまらない。

 ―――物足りない。

 極上のものを知ってしまったせいか、それが心底欲しくてたまらない。


 この乾きを、飢えを。どのようにして抑えればいい?





 際限が利かなくなりつつあったその願望を抑える。その手段はあらゆる手を使って講じてきたつもりだった。


 実験の合間ではモンスターを呼び出すだけでなく、時には犯罪者と呼ばれる者たちを誘き寄せて王都を襲わせたりもした。王都を護る警備隊を無力化して助けの来ない状況に落としいれたうえでその策を開始させたのだ。


 最初こそは毎日のように聞こえてくる悲鳴と絶叫、嗤い声に心が満たされていて。

 けれど同じようなものばかりが続いてくるとだんだんとつまらなく感じてきたので、すぐさま犯罪者共々その場所を血の海へと変えた。

 おかげで王都の中心にあるきれいなはずの噴水が、どす黒く濁った。




 腐敗臭がしてきたのでいくつかのを纏めて燃やしたりもした。その火花がもとでいくつかの家が焼け落ち、中にいたであろう人々が嘆声を上げながら逃げ惑い、焼け死んでいくのを見た。その時の悲鳴も聞いた。

 心地良いものだったが渇きはすぐに訪れた。つかの間の夢のようだった。




 大人だけではなく、時には子供を引きずり出して首をハネたこともあった。直属の部下となったいくつかの者たちに家を破壊させ、そこに住まう家族のなかから子供だけを連れ出す。押さえつけるように噴水の前に這いつくばらせ、親と思われる者たちの嘆願を聞きながらも容赦なく斧をその首に落とした。

 そのあとで子供を失った者たちが逆上し、包丁を持って襲いかかってきたので返り討ちにしたのを憶えている。

 その時に聞いた悲鳴も確かによかったが―――渇きはすぐに訪れるのだ。それもより大きく、存在を肥大化させて。

 おかげでいつまでも自身が満たされることはない。










 だからグレンは、いつまでも探し求めて彷徨うのだ。この肥大しきった欲望を、大きな穴を埋めてくれる・・・そのような狂喜よろこびがどこにあるのかと。

 おのが精神なかに大きく空いた渇望という名の空虚を満たす極上の悦楽、歓喜そのものはどこにあるのかと。

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