5話
「提案、ですか?」
宰相のオウム返しにレイラは頷き、そして。
「1つ目にあったグラスウォール王国に軍を派遣するかどうかですが…………グラスウォールの王都へ向かうのはエンデリアの軍ではなく、グラスウォール王国民たちにすることは可能でしょうか。お話によれば急変は王都周辺に多く、そこから民たちがまだ異変のない辺境に逃げてきたと聞きます。であるのなら……まずは王都中心以外の地区に足を運び、国を取り戻すための力を貸してもらえるよう、説得できないかと思ったのです」
あの日のお茶会にて話していたものを、ここでようやく打ち明けたのだ。
ざわり。感覚が重たい空気からピリッとした雰囲気に変化していく。急な変わりようにすべての者達が気づいてレイラへと視線を向けた。
なんだかじろじろと覗き見られているような視線ばかりだが、明らかに嫌悪するほどのものではない。なぜならば宰相の言葉を遮ってまで出してきた王女レイラの発案に、多くの者たちが興味を示してレイラを見ているからだ。
とはいえ純粋な好奇心を向けているのは騎士団長や宰相らを含んだエンデリア側で、エレミアやリフェイルなどは一体なにを言い出すのかと少し気遣わしげな様子である。招かれているとはいえ、宰相相手に堂々と意見を発言するのは大丈夫なのかと心配しているのだ。
けれど、レイラを止めに入らないのはそのような不安があってもそれでも彼女を応援したいという想いが強いからなのだろう。
一方でディックは言いしれぬ予感を気にしつつもレイラの想いと決意を静かに聞き入っているのが見られる。グレイはというとただ静かに彼女の話を聞き入る体勢だ。
国王は以前に話をきいているという余裕があるのか、判断をこちらに任せるような素振りを見せている。最終的な判断はこちらが行うものの、たくさんの意見を聞いた上で決定するスタンスのようだ。
ちなみにジェシカはレイラを気にかけてはいるが会議についていけなくなったのかお茶を飲んだりして大人しくしているようである。
どうやら憂いよりも期待のほうが彼ら彼女らには大きいらしかった。こちらを心配しているような目線もあるおかげで、見られている状況であろうとも臆することなく話ができそうな勇気が出てきている。
だからか、
「エンデリアの者たちではなく、あえてグラスウォール王国民から募り協力を求める。レイラ姫はそうおっしゃりたいのですね。では、なぜそのように考えたのかお聞かせ頂いても?」
空気の一変後に発言した宰相の言葉に対しても、
「もちろんです。あくまでも実現可能かもしれない小娘の考える理想論ですが、その部分も含めてこの場に披露させていただきます」
レイラはまっすぐに宰相を見据えて答えることができたのだ。
この部屋は今、異様な空気に包まれている。その空気に耐えながらもレイラは静かに言葉を発した。茶会にて話していたことをとある作戦とともに一言一句、間違えることなく。
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