4話
―――"復讐"。
宰相が苛立たしく告げたその言葉に、この部屋の空気がぐっと重たくなる。この場に居合わせるそれぞれの者たちが苦虫を噛み潰したような、沸騰しそうな怒りを押さえつけているかのような、あるいは泣きたいのをこらえるような表情でその言葉を聞き届けたからだ。
晩餐会にあった和やかな雰囲気も会議を始めた時の張り詰めた空気からも一変したそれは、時間帯が夜ということもあって一層重苦しく暗いものとなっている。
それでも誰一人として意見を述べる者がいないのは、最後まで口を挟まずに話を聞く姿勢があるからだろう。いっときの感情で台無しにしたくないと、理性と本能の間でそう考えているからこそ、合いの手をいれないのだろうから。
目線だけで全ての者の反応を見たあと、宰相は話の続きを始めるために口を開く。
「………復讐。その言葉は何もかもを奪われた者にとって、甘美なる響きなのでしょう。おのが力で敵を根絶やしにし、奪われた分まで取り返す。それが成功したならば、どれほどの多幸感を得られることか。…………私には到底、そのようなことを考えている者の思考を理解できないのでしょうがね」
言葉を紡ぐその声はさっきよりもわずかに感情がこもっていて、静かすぎる食事の部屋によく響きわたった。
しばらく静かになる部屋の中。空気を切り替えるために宰相は一つだけ咳払いをすると、
「さて、この状況において我々がしなければならない………いや、優先するべきことはいくつかございます。そしてその中でも特に急がなければならないのは3つ」
手で指折り数えながら話を続けた。
「1つ目はグラスウォール王国にエンデリア王国の軍を派遣するか否か。そして、派遣する際にはどのようにして作戦を立て、進軍するか。こちらに関しては騎士団長やグレイ殿を交え、会議を進めていこうと思います」
名前を呼ばれたグレイと騎士団長が静かに頷いた。
それを確認し、宰相は話をさらに続ける。
「2つ目。進軍が完了したそのあと、グラスウォール王国の国民を保護することになるとは存じますが……その時、グラスウォール王国民に何をするべきか。食料の援助、治安の保証、町や村の立て直し。どのくらいの時間を要し、どのくらいの費用が必要になるか、そのための話し合いも行わなければなりません。とはいえ2つ目の事案は制圧が終わってから、という後回しも可能です。ただ、ある程度の計画立案は必要になるかと思われます」
国王が目を閉じて同意の態度を示し、リフェイルが背筋を伸ばす様子が見えた。
「そして3つ目。これは1つ目の話し合いと同時進行になりますが………」
するとここで。
「宰相様」
今まで静かに聞いていたレイラが口を開いた。ざわりと空気がさらに一変するなか、彼女は立ち上がると告げる。
「話の腰を折ってしまって申し訳ありませんが………少しあたしの提案、というか考えを聞いていただけないでしょうか」
と。
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