3話
同意の諾はすぐに挙げられた。それを確認して国王は話を続ける。
「まずはこれまでの情報を確認することとする。宰相、詳細をここに」
話を振られたエンデリアの宰相はその手に紙束を持って立ち上がり、一度だけ頭を下げると静かに話を始めた。
「ではまず、20年前からここまでのグラスウォール王国の内情についての話です。かの国の内側は王家暗殺の悲劇を皮切りに悪化と劣悪の一途を辿っており………治安は以前に比べるとより最悪なものに、環境としても作物や動物たちの激減、それから天候の不安定さといった影響が今日に至るまで出ております。被害として最も多いのが王都を中心とした出入りの激しい地域です。そのあたりが主に大きい様子ですね」
ちらりと情報を纏めた紙束を見つつも話を続ける宰相。それを一同は固唾をのんで聞き続ける。
淡々とした言い方は聞く人によって冷たいだとか言われそうなものだが、今の状況としては冷静な判断ができるということで文句らしきものはない。というよりか、あまり気にしないという方が的をいてるというべきか。
どちらにせよ緊張も相まって静かに聞いている様子である。
報告という名の話は更に続く。
「中心から離れた地方や辺境では、被害が少ないかわりに王都からの噂が大きく流れており、それを聞いた住民たちの不安げな様子が見られています。このあたりは確か、グレイ殿が集められた情報だとか」
宰相がちらりとグレイの方を見ると、
「ですにゃ。ただ、治安の悪化に関しては急激にではなく、解けた糸のようにゆっくりと広がっていったようなものでしたにゃ」
グレイは頷き、さらにその後でジェシカが話を拾い上げて付け足した。
「治安の悪化は兄さまの話のとおりです。けど、王都周辺にある木々や側で流れてる川の水は、20年前のあの日にすぐ濁ったり枯れたりしたそうなんですよね。まるで精霊たちがなにかに怯えているようだったと、当時の精霊使いさんから話を聞いたときに仰ってました」
「………精霊が、怯える。そんなことがあるんですか?」
思わずといった形でリフェイルが言葉をこぼせば、
「………現状では聞いたことがないものかと思います。けれど………精霊たちは総有の記憶として、あの時の戦争を憶えているのかもしれません。その部分が無意識の回避のようなものにつながっているのではないでしょうか。あるいは、精霊神である不死鳥フェニックスからの感受がそうさせるのかもしれませんが」
隣に座るエレミアがすぐさま返答する。
「記憶の総有………精霊のことを事細かく知れているわけではないが、あり得ない話ではない」
「感受という部分でいえば、精霊の愛し子がソレにあたるのではないかと。学会でその話をすれば、議論が白熱すること間違いなしですな」
侍従長が国王と小さく話をしている。騎士団長はというと目を閉じて静かに聞いているようだ。
さらに話は続く。
「………そういった問題点があるのにも関わらず、グラスウォール王家を廃して君臨した新国王は対策をとらないそうで。このことから考えられるに新国王を名乗った何者かはただグラスウォール王家を殺したかっただけなのではないか………そのような考えがあると言われてきました。まるで頂点に立ちたがる幼子のような無垢さと飽きっぽさがその者にあったのではないか、と。だからこそただ遊戯の限りを尽くして国そのものを壊したいのだと」
とここで、宰相は口を閉じて深呼吸を一つした。不自然な言葉の途切れに違和感があるものの、話は続くだろうと察した一同は静かに言葉を待つ。
呼吸は二度行われた。
そうして覚悟ができたのか、宰相は眉を寄せると言い放ったのだ。
「………しかし我々が考えていたその仮説は、ジェシカ殿が持ってきてくださった情報によってそもそもの根底から覆させられることとなります」
「確かに新国王と名乗る敵は混乱を国に招き入れた。王族をすべて殺すという方法によって民の心を壊そうという考えは、ただ国を壊すというだけであれば最良の方法かつ実にいい計画だったと言えるでしょう。………けれど新国王の目論見はそのようなものではなかった。国を壊すことによるその憎悪を持って王族に、"不死鳥の乙女"の血族に復讐する。国を壊すのはその過程の一つで、王家への復讐こそが最大の計画ではないか。我々はそういう推測に至ったのです」
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