序章 不穏

2話


 "軍隊のように統率された動きで大移動したモンスターの群れ"。

 現れた兵士によってもたらされたその情報は、あまりにも不吉すぎる前触れだった。



 男性陣はすぐさま顔を険しくさせ、女性陣は不安げな様子を表情に出す。侍従長や国王は表情こそ変化はないが考え込む素振りを見せた。

 室内は不気味に静まり返っている。先程まであったはずの食事会の和やかさと話し合いのための緊張は彼方へと消え去って、今は誰も口火を切ろうとはしない。

 とはいえこの場にいる全員がそうなってしまうのも仕方がないと言えるだろう。ようやくグラスウォール王国に向けて動き出そうという時にこのような知らせが来るなど、ここにいる誰もが予想できなかったのだから。

 

 


 長い、長過ぎる静けさが室内を包む。それぞれがことの重大さを受け入れられず、理解するのに時間がかかっていたようだった。


 そんな重たすぎる静けさを断ち切ったのは、

「………エンデリア国王陛下」

 というレイラの一声で。


 すべての視線が注がれる中、彼女はその場で立ち上がって国王の方を見つめると、

「不敬を承知で申し上げます。動揺すべきことではありますが、今はまず話し合いを始めましょう。……あたしたちがここで動かなかったことを後悔するその前に」

 とはっきりとした言葉で言いのけたのだ。背筋をピンと伸ばし、凛とした表情と王族の気配を醸し出しながら。



 数日前とは違った今の彼女の雰囲気に、国王は軽く目を見張ったあと。

 ふわりと表情を和らげたのちに「………そうである、な」と小さくつぶやくと、

「侍従長、侍従の誰かに宰相と騎士団長をここに呼ぶよう伝えよ。それから客人方、定外の知らせはあったがこのまま話し合いを始めようと思う。いかがかな?」

 真剣な面持ちで次々に指示を出し、ようやく会議の開催を知らせるのだった。













「…………さて」

 カチャリと茶器を鳴らしながら、国王はさっそく話を切り出した。

 この部屋には国王や食事会に参加していたレイラとリフェイルの兄弟、ディック、グレイとジェシカのデスフォート一族、巫女のエレミア、そして元グラスウォール王国騎士団長の父を持つスティーブが参列している。侍従長によって呼び出された宰相やエンデリア王国騎士団長もだ。それぞれ指定された椅子に座り、言葉が発せられるのを今か今かと待っている状態である。

 テーブルの上にあった食後の口直しであるナッツ類はすでに下げられ、ティーポットとティーカップのみとなっている。まだティーポットの注ぎ口から湯気が出ているところを見ると、それほどの時間は経っていないようだった。


 ―――そんな中での国王の一言は全ての者たちに緊張を広げるのには十分だったらしい。なぜならそれぞれの表情が見る間に真剣なものへと切り替わったのだから。




 誰かの嚥下する音がかすかに聞こえる。切迫した空気のなか、国王は机に身を乗り出すと話を始めた。

「外部の異変は予想外のことだが………我々の目的は変わらない。これよりグラスウォール王国に向けて軍を派遣するか否か、この話し合いにて決めようではないか」

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