第20話 現状
ガララッ……。
「うぅ、つ、疲れたぁ~~~……」
長い旅路の果てにようやっと辿り着いた自分の席まやってくるなり、心の底からそんな声を漏らし、机へと突っ伏していく。
うぅ、最近なんかこんなんばかりだなぁ~……。
うぅ、い、言っとくがなぁ~、俺だって何も好き好んで琴姉のキス責めを受けているわけじゃねーんだからなっ‼
ここに至るまでにはそりゃあもう、聞くも涙、語るも涙の出来事があったんだよぉ~……。
そう、アレは薔薇が投下されたその日の夜のことである――……。
「――……ひ、酷いよ、ヒナちゃん……。お、お姉ちゃんの唇を――。ううん、女の子の唇をあんな形で奪っておいて、今更なかったことにして欲しいなんて……。いつからそんな薄情な――。それこそ、結婚詐欺師やノルマが達成できず止むを得ずカケで飲ませた
ば、馬鹿に具体的な例を挙げる琴姉に対し、
「だ、だから、アレはあくまでも事故であって……。そう! もともとキスなんかしていなかった、そういうことでお互いキレイサッパリこの件については忘れるということでひとつ……」
あくまでも軽い感じでもって、そんな提案をしてみたことろ、
「忘れられるわけないじゃないっ‼」
で、ですよねぇ~、まぁ~、絶対そういうとは思っていたけど……。
かといって、これで引き下がっては今後の俺の学園生活――。ひいては人生にまで多大な影響を及ぼすわけで……。
「それに、仮に事故だろうが何だろうが、結果的にお姉ちゃんの唇を奪ったことに変わりないじゃないっ‼ それをそんな、忘れろなんて……。うぅ、お、お姉ちゃん、あ、ひっくっ、アレが、ぐすっ、アレが初めての……。ふ――ファースト・キスだったのにぃいいいいいいいいいっ‼」
そう言って、ワーッと泣き崩れてしまう琴姉に対し、俺の答えはというと、
「う、嘘つけぇえええええっ‼ アンタ、ガキの頃から散々俺のこと騙して、事あるごとにチュッチュしまくってたじゃねーかっ⁉ よもや忘れたとは言わせねーぞっ‼ そ、それになぁ~、な、泣き真似なんか通用すると思うなよっ‼ そもそも、アンタがこんな程度のことで泣くようなタマじゃねーってことはこの俺が一番よく知ってるんだよっ‼」
「ひ、酷い、ヒナちゃん……。お、お姉ちゃんのことをそんな明け透けに言うなんて……。チッ……!」
おいちょっと待てっ、今舌打ちしなかった?
「だ、大体なぁ~、今にして思えばあの穴にしたって怪しさ全開というか何というか……。サイズも余りにもピッタリだったし……。どう考えても始めから仕組まれていたとしか……」
そう言ってついに事件(?)の核心に向けて切り込んでいったところ、
「……ヒナちゃん、そこまで言うからには、ちゃんと証拠があるんでしょうね?」
「――⁉ し、しょう、こ……?」
「そう、証拠……。お姉ちゃんがヒナちゃんを陥れたっていう確たる証拠……」
空気が一変したかと思えば、そこにいたのはさっきまでのおちゃらけた琴姉とは打って変わって、それこそ我が学園の生徒会長・結城琴葉としての顔があった――。
そんな変化に少しビビりながらも、
「そ、そんなもんなくったってなぁっ、これまでのアンタの所業を省みれば誰の目にも明らかだろうがっ‼」
「残~念♪ そんな曖昧なことじゃあ証拠どころかお話にすらならないわねぇ~」
そう言って鼻で笑ったかと思いきや、
「ま、それでもヒナちゃんがどうしても白黒ハッキリさせたいっていうのなら、いっそ法廷で争うっていうのはどうかしら……?」
「ハァッ⁉ ほ――法廷っ⁉ あ、アンタ、し、正気かっ⁉」
実の姉の口から飛び出したあり得ない単語に目を丸くする俺とは対照的に、
「あら? そんなに可笑しなことかしら? これ以上中立な場所ってないと思うけど? それに、お姉ちゃんは全然構わないわよ? 寧ろその方が手っ取り早くていいんじゃないかしら? それに、やっぱり第三者の意見もちゃんと聞いてみたいところだしね♡」
そう言って何やら第三者という言葉をやたらと強調していく琴姉。
……第三者? な、何だ? 一体、どういう――ハッ⁉ そ、そうか、そういうことか……⁉
か、仮にだ……。こ、こんな下らないことで万が一にも裁判なんてことになろうもんなら、それこそマスコミ共が
そうなりゃあ当然、あらーむテレビかなんかでも取り上げられた挙句、俺と琴姉がキスしたことが、クラスメートはおろか、それこそ日本中に知れ渡っちまうってことじゃねーかよっ⁉
「…………」
「…………♪」
じ――冗談じゃねーぞ……。
そ、そんなことになったら完全に俺の人生摘んじまう……。それこそ、色んな意味で……。
ようやっと事の深刻さを理解すると同時に、
「それで、ヒナちゃんのお返事は?」
「……うぅ、す、済みませんでした、か、勘弁してやってください……」
それこそさっきまで間違いなく俺が被害者であったにもかかわらず、気が付けばいつの間にやら俺が加害者かのような立ち位置に入れ替わっていて……。
俺の方から琴姉に対し、示談を申し入れるという何とも訳の分からない状況に……。
「――ハイッ、決まりぃ~♪ それじゃあ、改めて……」
と、真っ白になっていたところへ、
「はふっ♡ ん、ぴちゅ……」
「――⁉ ん、んちゅ、んぐぐぐっ!?」
完全に油断していたところへの不意打ちのキスが――。
「こ、琴姉っ⁉ い、一体何のつもり……⁉」
「何のって、そんなの決まってるでしょ? 仲直りのチュ~だよっ♡」
「んなっ⁉」
――……とまぁ、こんな感じでもって、あの日の話し合いは終わったわけだが……。
まぁ、その結果、今に至るというわけなんだが……。
そんな風に前日のやり取りを思い返していたところへ、
「オ~~~ス、陽太。相も変わらず今日もギリギリだなぁ? さては、徹夜でエロゲーでもやってたなぁ~?」
そんな物騒なことを言いながらも、
「おいおい、
「へへ、わりーわりー。ついな♪」
にしても、なんだかんだでコイツとバカ話してる時が一番落ち着くってのも、何だかなぁ~……。
そんな風に、改めて悪友の有難みってヤツを実感していたところ、
「ま、ソレは置いとくとして……。ところでお前、さっきからどうしたの?」
「あん? 何のことだ?」
「いや、何か唇ばっかやたら気にしてるみたいだけど……。ひょっとして、口内炎でも出来たのか?」
「へ? ……――あっ⁉」
知らず知らずのうちにも俺は人差し指でもって唇周辺をついつい弄っていて……。
これって、よく禁煙してる人とかがタバコを止めたら唇がやたら物寂しくなってくるなんていうことを言ってるの耳にしたことがあるが――。
まさか、コレって琴姉とのキスがすっかり唇にしみこんでしまったせいで、早くも物寂しくなってきてるってことじゃねーよな……?
そんな不安に駆られながらも、
「あ、あのさぁ~、ちょっと訊いときたいことがあるんだけどよぉ~……」
「あん? 何だよ改まって?」
「あのさぁ~、特に他意とかはなくて、あくまでも興味本位から訊くんだけどよぉ~、
「――アッ⁉」
「――⁉」
瞬間、さっきまでとは明らかに違うドスの利いた声に切り替わったかと思えば、
「「「「「――アッ⁉ き、キスだぁああああっ!?」」」」」
ひ、ひぃいいいいいいいいいっ⁉
その言葉を口にした途端、クラス中の殺意が俺へと向けられる中、
「コラッ、陽太ぁ……。よもやとは思うが、お前、よりにもよって、まさか琴葉先輩とキ――」
「ち、ちちちちちげーよっ、そ、そんなわけねーだろうがっ‼ そもそもキス違いだよっ‼」
「あ?」
「だ、だから、そ、その……。――そ、そうっ‼ 俺が言ってんのは、さ、魚の――。魚の
「あ? さかなぁ~?」
「そ、そうそう! う、海にいる泳いでるあの
自分としてもかなり無理があるとは思いつつも、そう言って何とか煙に巻こうとした結果、
「…………」
「「「「…………」」」」
……ごくっ!
「ああ……。なぁ~んだ、そういうことかよぉ~。ったく、紛らわしいこと言いやがって……♪ ……う~~~ん、
「お、おお、さ、流石
ふぅ~~~、あ、危ないところだった……。
どうやらこの
にしても、天麩羅の話してるのに、アジフライって……。
この男は、天麩羅とフライの区別もつかんのか?
そんなことを思いつつも何とか誤魔化せたことにホッとすると同時に――。
だが、これでひとつハッキリした……。
俺と琴姉がキスしたことが万が一にもこいつらにバレようものなら、俺の命はないってことがな――。
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