一章 再開には右ストレートがつきものらしい。

向かい側のベンチで大口を開けて、気持ち良さそうに眠る少女の姿があったからだ。

さながら、ひだまりの中で丸くなる猫のようであった。

白を基調きちょうとし、青いラインの入ったブレザーに同色のチェックスカートは、蒼海そうかい第一航空校の制服だろう。

そんなことより、問題は彼女の格好かっこうにあった。


さぞ寝相が悪いらしく、すらりとした足を投げ出し、大股を開いていて、こちらからだと角度的にスカートの中がのぞけてしまうのだ。

デフォルトされた三毛猫が、こちらを見て微笑みを湛えていた。ニャー。


––––その歳でキャラものの下着はどうなんだ……。


と思いつつ、いくら堂々どうどうと見せているとはいえ、覗くなんて良くないと良心に従って、視線をらした。

が、いくらキャラものとはいえ、年頃の女の子の下着であることには変わりない––––しかも着用された状態–––。

このチャンスを逃すのはもったいないんじゃないか、という思春期特有の思考が、視線を戻そうとする。


––––いや、まて。寝ている女の子の下着を覗くなんて、最低じゃないか。


……ん?よく考えたら、これは覗いてるわけじゃない。厳密ににいえば、前を向いているだけで、その行動の先にたまたま視界に入ってしまうだけだ。だから決して覗いているわけじゃない……。


なにやら最低な事を考えている竣に、

「おにーさん」

と声が掛かった。

竣は自分が呼ばれていることに気づかなかった。目の前の事の集中していたということもあるし、何より少し遠くから聞こえたからだ。

「おにーさん!」

今度はすぐ近くで聞こえた。

その段になって、竣はようやく自分が呼ばれていることに気づいた。

声がした方に振り向くと、真横に少女が立っていた。淡いブルーのプリーツスカートに、春物にブラウスを着た少女だ。

顔を上げると、逆光が彼女を縁取り、栗色の髪が金色に輝いていた、。

竣は、眩しさに眼を細めて尋ねた。


「彩乃か?」

「そーだよ。おにーさん」

彼女は、そう言って微笑んだ。

「ああ。すごい久しぶりだ」

竣はベンチから腰を上げる。

「おにーさん、全然変わってないからすぐに気づいたよ」

そう言った彩乃の顔が、頭一つ分下にある。

長いまつげに大きな瞳。透き通るような白い肌にほんのりとあかく色付いた頰、愛らしく整った顔立ちは、十分美少女の部類に入るものだ。

艶やかなセミロングの髪が、春の暖かな、けれども冬の気配を残した春風に揺れた。


「彩乃は本当に変わったな」

そこにはもう、竣の知っている野山を駆け回って泥だらけになっていた頃の、ヤンチャな彼女の姿はなく、代わりに可憐な少女がいた。

背の高さや顔つき、服装など何もかもが、記憶にある彼女とは違っていて大人びて見える。

竣は改めて、四年という歳月の長さを実感するとともに、その流れをを彼女とともに過ごす事が出来なかった事を少し、残念に思った。

だが決して後悔はない。



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