一章 再開には右ストレートがつきものらしい。
木々の間から、優しさがこぼれ落ちているようだった。
結城竣は
こんな近くに桜並木があったなんてなあ、と竣は思った。
竣がいた東京湾近郊の町は激戦により
眼前で桜の花びらが一陣の風に舞う。
「……キレイだな」
竣は、
そんな彼に
竣はやや驚いて、ポケットからスマホを取り出す。ディスプレイ見て首をひねった。
知らない番号だった––––いや、正確に言えば、覚えている電話番号などない。彼は
出るのに四苦八苦しながら、やっとの思いで、電話をとった。
「もしも––––」
『おにーさん、おっそい!!』
「––––うわあ」
スピーカーから聞こえたとんでもない大声に、思わず耳からスマホを遠ざける。
しばらく耳を押さえて
耳のダメージが抜けたところで、電話に出直す。今度は、耳から少し離した。
『もしもしおにーさん?あれ……もしもーし、ねえ聞いてるの?』
「ああ、聞いてるよ。
『そうだよ、もう。ずっと待ってるんだからね』
彼女の声は相変わらず大きい。電話の向こうに声が聞こえているのか心配なのだろう、機械音痴は遺伝するのかもしれないと
彼女は、結城彩乃。竣の一つ下の妹だ。今年で16になる。
「ごめんごめん」
『それで、いつ着くの?』
「……わからない」
『わかんないってどういうこと?」
「それが途中で道に迷って、自分がどこにいるのかわからないんだ」
さっきまで道に迷っていたことすら忘れていたとは、
『もー、全くおにーさんはなにも変わってないんだから』
短い溜息がスピーカーから
「うぐっ、本当にごめん」
ダメージカウント1。
「彩乃は変わったな」
『当たり前でしょ、四年も経ってるんだから。むしろ変わってない方がおかしい』
「うっ、」
改心の一撃。竣のHITPOINTは、レットゾーンの突入した。なんともうだつの上がらないおにーさんである。
『それより、おにーさん。いまどこに––––周囲に何が見える?』
竣は辺りを見回して、
「桜並木」
『なんだ、すぐそこじゃない』
どうやらそれだけで、彼女にはわかったらしい。
ここはそれだけ有名なところなのかもしれない。
『ねえ、歩いてて公園みなかった?』
「いや、公園なんてなかったぞ」
『じゃあ––––そのまま真っ直ぐ、桜並木の下を歩いて行ってみて』
「わかった」
電話を
すると、右手に公園が見えてくる。
「あ、あったぞ」
入り口に着くと、
「……なみき……並木公園?」
『そうそこ、その公園で待って、私が迎え《むか》に行くから。それまでそこから動かないでね。また、迷子になるといけないから』
竣は子供じゃないんだぞ、そう言ってやりたかったが、図星だったので返す言葉がなかった。そしてなにより、もう電話は切れていた。
スマホをポケットの戻しながら、嵐のような妹だな、と竣は思った。
園内に入ると、ベンチを除いて遊具が何一つなかった。そういう
この公園の名前は、園内と外の桜並木からきているのかもしれない。
竣はそう当たりをつけながら、ベンチに腰を下ろした。
足元を、まるまると太った明らかに
ふと、この鳩が空を飛ぶ姿が見たくなって、ぼんやりと視線で追う。その先の光景を見て、思わず眼をひん
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