第115話 でも、冷静になんてなれるわけなかった
過去との因縁に遭遇したことで、ふいうちをくらった心臓が心拍数を上げてきてたけど、今はちょっと落ち着いた。
僕にはやらなきゃら並い事があるんだ。
そんなちっぽけな事で、無駄に怖気づいてるわけにはいかない。
安全地帯の中央。
奴らの中心には一つに椅子があって、そこにらいかが拘束されている。
あいつら、人の妹になんて事してくれてんだよ。
半殺しどころじゃすまさないからな。
大丈夫。
あいつ等なんて大した事ない。
やれる。
勝てる。
自分に暗示をかけるように、心の中で言葉を繰り返す。
僕達は最後の確認をしたのち、奴らの本拠地へと踏み込んでいった。
「ザンザ! らいかを返してもらうぞ!」
「お前はニルバか! ちっ、もう見つけたのか! おい、侵入者だ!」
「お兄ちゃん!?」
らいかをとりかこむようにして立っている連中はこちらを見るなり、殺気だった。
数は5、6人。
相手の方が二倍多い。
奴等が行動に移ろうとする前にこちらから攻撃をしかけないと駄目だ。
一番手前側にザンザがいて、他のプレイヤーに偉そうに喋って警戒を促している。
その事から、奴がリーダーなのだと分かる。
好都合だ。
頭を潰せば混乱が起きるはず。
僕は他のプレイヤーには目もくれず、ザンザにだけ向かっていった。
「あぁぁぁぁ!」
大声を発しながら、まず不意をつかれて動揺している奴に体当たり。
つき飛ばしたザンザに剣を振るうけど、相手の反応は悪くなかった。
こっちの攻撃を転んで避けた奴は、プレイヤー達を壁にして後ろに下がろうとする。
「させるか!」
「ちょっと、ニルバっち。そのまま突っ込んだら囲まれちゃうよ!」
アリッサの声がしたけど、僕は思ったより冷静になれなかったようだ。
できる?
やれる?
嘘だ。
やっぱり過去の事は消せない。
消したくても、消せなかった。
冷静ぶってたって、ほら結局は下手を打った。
実は僕の行動は打ち合わせと違う。
相手が引いたら、囲まれないようにこっちも距離をとるつもりだった。
でも、僕のせいでご破算だ。
このまま行ってへたしたら、僕もやられて人質×2になってしまう。
何とか立て直さないと!
けれど、逃げるザンザに攻撃を浴びせる度に囲まれていくのが分かる。
「囲んで一斉攻撃だ!」
「数の利はこっちにあるんだからな」
「怯むな、一気に押せ!」
「ニルバさん!」
シロナの悲鳴が上がるが、その警告の声を耳に入れてる暇なんてない。
包囲網は同時に確実に閉じつつある。
「うっ、くそっ!」
全方位からの攻撃を受ける事になって、ライフが驚異的なスピードで減っていった。
数の力ってバカにできないな。
衝撃が半端ない。
「お兄ちゃん!」
らいかの心配そうな声が聞こえて来て、迂闊に行動した事に罪悪感が湧いてくる。
助けにきたのに、心配かけてるなんて、情けない。
何だよこれ。
結局、成長なんてしてないじゃないか。
変わったなんて錯覚だった。
僕はずっと、らいかに顔向けできないような兄貴のまま。
けれど、打ちひしがれる僕と違って、外野二人は諦めていないようだった。
前と同じだよな。
僕が見切りつけた状況の中で、まだシロナ達は踏ん張るんだから。
「これだけ密集しているなら、打開策あるかも。ニルバっち巻き込むけど、あの魔法なら。シロナっち、お願い」
「はい!」
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