第116話 因縁



 アリッサの案を受けたシロナが行動。

 

 直後、人口密集地帯にアクアトルネードをぶち込まれて全員もれなくぬれねずみになった。

 足元も水浸しで、ちょっと滑りやすくなってしまった。


 僕も思いっきり巻き込まれた。

 元々すくなかったライフもかなり危険地帯だ。


 でも、状況は悪くない。


 前もってどんな魔法がくるか分かってた僕の方が、立ち直りが早かったからだ。


「らいか!」


 その隙に、縄で縛られて転がされているらいかにかけよって、拘束を解いてやる。


「お兄ちゃん! もうっ、心配したんだよ」

「それはこっちのセリフだろ!」


 どっちが年上なんだか分からないやりとりに、情けなくなったり、安心したりだけど、のんびりやり取りしている場合でもない。即座に、逃走へうつる。


 僕達の目的は奴らと戦う事じゃない。

 らいかの救出だ。


 助け出してしまえたら後は逃げるだけ。


 らいかの手を引き、シロナ達を連れながら安全地帯を出て、再びアリエスの魔宮の内部を走る。


 同時にスキルを使用。

 移動用のアイテムでの脱出を考える。


 だけど、待機時間がある為、すぐに効果が出ないのが歯がゆい所だ。

 待機時間中に攻撃を受けたら、発動がキャンセルになってしまう。

 だから、絶対に追いつかれない場所まで移動しなければならなかった。


 数時間ぶりの再会とあって、シロナは自分の事のように喜びながらも、来夏の様子を心配している。


「良かった。らいかさん、大丈夫でしたか?」

「私は大丈夫です。お兄ちゃんが助けに来てくれるって思ってましたから。シロナさんこそ」


 初対面のアリッサの方は、興味の方が勝ったらしい。質問が尽きないようだった。


 君達、状況理解してる?

 走りながらガールズトークしないでよ。


「へぇ、この子がニルバっちの妹さん? なかなか可愛いじゃない」

「むぅ女の人が増えてる。この人もお嫁さん候補なのかな」


 らいかはこんな時に何考えてるんだよ。

 それでも一つの山場を越えたと思えて、僕の方も力が抜けそうになる。


 現実世界でも仮想世界でも、人が危険にさらされてる状況っていうのはなかなか心臓に悪い。

 それが家族なら、なおさらだし。


 けど長々と安心してはいられないようだった。

 直後、背後から怒声が響いてきた。


「ニルバぁぁぁ! テメェはまたか! 俺の邪魔をするなぁ!」

 

 思ったより早い。

 僕の知らない間に、相手も成長してるんだから、予測できない事をしてくるのは当然だけど、それにしたって早すぎだろ。


 執念の力とか?

 うわ、こわ。


 振り返ると、驚異的なスピードでザンザが向かって来る所だった。


 ダンジョンのところどころにある濡れた足場も気にしていない事から、移動力に関係する装備品を身につけているのだろう。


「邪魔なのは、こっちのセリフ……うわっ」


 抗議の声を上げようとしたけど、すぐにそれどころじゃなくなった。

 奴の突進を避けきれなくて、ダンジョンの床を転がる事になったからだ。


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