第102話 慣れの理由



 そんならいかの戦い方を見ていたシロナが、感心したような声をだす。


「私の初めての時よりも全然良いです。何か習ってらっしゃたんでしょうか」

「どうだろう。そんなはずはないと思うけど……」


 少なくとも僕の知る限りでは。

 首をひねっていると、らいかが種明かししてくれた。


「シロナさん。私が初心者より動けるのは、仮想世界での戦い方をレクチャーしてくれた人がいるからですよ」

「現実世界にそんなお知り合いの方がいたんですか?」

「ううん、開発スタッフさんの中の一人でした。開発部門って言っても、色々あるみたいで、実際に仮想世界で歩き回りながらその都度、報告されたり見つけたバグを修正している人がいたみたいで」


 ようするに。

 パソコンの前でプログラムを組んだりしてそうなイメージがある開発連中だけど、部署によって色々なやり方があるらしい。


 だから、実技に秀でた者がいてもおかしくないって事なんだろう。


 それにしても、らいかは平気なのかな。


 家族を閉じ込めたのと同じ仮想世界で練習なんて、ちょっと前の妹の姿を知ってる僕からみたら考えられない。


 数年前に最低なPKに騙されてログアウトした直前に、オンラインゲームへの嫌悪感をはっきりと示していたのに。あの時に拒絶の感情を表した妹と同じようには思えなかった。


 一体何がきっかけで、過去の呪縛を振り切ったというのだろう。


「ねぇ、らいか……」


 それが知りたくて僕は話しかけるんだけど、間が悪かったらしい。


「お兄ちゃん。お腹すいちゃったな、ちょっとオヤツにしようよ」

「……はぁー、別に良いけど」

「むぅ、何でちょっと怒ってるの」

「何でもないよ」


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