第84話 乗り越えなくちゃならない壁



 私はとあるビルの一室にいた。

 まだ、ここは仮想世界じゃない。

 お兄ちゃんを助ける為に、現実世界から離れるためには、やるべき事がある。


 医療スタッフから注意を受けたり、必要な説明をしてもらった後で、用意された円筒形の装置の中に身を横たえる。

 体には無数の管が付いていて、何が起きても変化がすぐに分かる様に健康のチェックを行っている。


 私はこれから、この装置を使って仮想世界へ向かう事になる。


 私のお兄ちゃんを閉じ込めている、現在進行形で忌まわしい事件を起こしている、オンラインゲームの中に。


 でも、どんなに怖くても私は、逃げちゃいけないんだ。


 正直やりたくないなって思う時はある。

 誰かが代わってくれないかなって。


 でも、家族を助けるんだから、それはやっぱり私の大事なお仕事だと思う。


 例え他の人に任せてお兄ちゃんが無事に帰って来たとしても、きっと満足できない。


 お兄ちゃんを助ける為には。

 他の誰でもない私が、戦わなくちゃいけないんだ。


 それで。

 もし、まだお兄ちゃんがあの時の事を気にやんでるんだとしたら、私はもう大丈夫だよって言ってあげなくちゃ。


 私は大丈夫だから、きっとお兄ちゃんも乗り越えられるよって、そう伝えてあげなくちゃいけないんだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る