第83話 噂



 そんな風に、一歩離れた位置からアリッサとシロナが楽しく会話しているのを聞いていると、妙な噂が耳に入ってきた。


「聞いたか? 運営スタッフがこのゲームに介入してくるとかって話」

「まさか。今まで何の連絡もなかったのに、ありえるわけないだろ」

「けど、主要なトッププライヤーの所に、外から連絡が来たって噂があるぜ」

「どうせデマだろ。信じられるかよ」


 声の主は歴戦の猛者然としたプレイヤー。

 そんな奴が大真面目な顔をして、話をしながら脇をすれ違う。

 聞いた事ない話だったけど、さいきん流行りだした噂なんだろうか。


 シロナのおかげというか、シロナのせいでというか。一か月前に引きこもってたころよりは世間の情報が入ってくるようになったから、大きな噂については知ってるけど、今の話は全く耳にした事が無かった。


 どういった背景があってそんな噂が流れてるんだろう。

 出所について考えてたら、不意打ちでシロナから話しかけられた。


 あ、僕の存在忘れてなかったんだ。


「という事だと思うんです、ニルバさん」

「え? なんか言った?」

「聞いてなかったんですか」

「なんか喋ってるのは聞いてたけど」

「それは聞いてなかったのと同じだと思います」

「そう?」


 あーあ、膨れちゃって。

 せっかく見た目が良いのに、それじゃ台無し。

 ま、思っても本人には言わないけど。


 そのまましらばっくれてると、アリッサが勘の良さを発揮した様だ。


 いつのまにか僕の背後にまわっていた。


「さては例の噂をさっそく耳にしたようだね。ニルバっちてば、耳ざとーい。いやぁ、気になるよね。気になっちゃうよね」

「うわっ!」


 耳の近くでニヤニヤ笑いながら、肩越しに声かけてくるとか。

 慣れ慣れしすぎでしょ。

 それ、驚くからやめてくれない?


 引きこもりじゃなくても、びっくりするって。


「他の人も気になってる人結構いるみたいだよー。ひょっとしたら、外から救出してもらえるかもってね」


 僕としては、ただのデマだろうって意見だけど。

 そういう不確かな情報に、あんまり幻想抱かない方が良い。


 どうせ、真実を知った時に期待した分だけ、ダメージ受ける事になるんだからさ。


 そんな不確かな話でも、シロナは僕と違って望みを捨てていないようだ。


「本当だったら、良いですよね」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る