明かされた真相
なるほど。蜷川の納得できないと言っていたのはこの事か。でも、違和感についても口にしていたが、どうもそれとはまた別のような感じもする。
「じゃあ、蜷川君はこう言いたいのね。私がそのアカウントで七瀬さんを呼び出し、神島さんを脅して操り、最後に自殺するように仕向けた、と」
「まさにその通りです」
「脅す、って何をネタに?」
「あるじゃないですか。とっておきのネタ、七不思議の呪いが」
「まさか……」
「そうです。神島先輩は七不思議の呪いに酷く怯えていました。だから、先生はそれを利用したんですよね。例えばこちらの指示に従えば七不思議の呪いの解除の方法を教える、とか」
あっ、と思わず声が出そうになり慌てて口を手で抑える。
「そう考えれば、神島先輩の言動の変化も説明がつくんです。七不思議の呪いから解放されたく必死な先輩は、その助言のおかげで呪いへの恐怖がなくなった。言う通りにしていれば呪いを受けないのですからね。けど、最後に頼っていたはずの貴女から見捨てられ、呪いを解除してもらえなくなった。だから絶望して自殺未遂をした」
最初は人の背中に隠れるほど怯えていた。次に会った時は平気な顔をしていた。そして下駄箱で出迎えた時の神島先輩の青醒めた表情。今の蜷川の述べた流れに一致する。
的外れな推理をしていると思いきや、蜷川の説明は何もかもがスッキリと当てはまっている。池月先生も先程までのように、すぐに反論しようとはしなかった。
「……たしかにそれなら説明がつくわね。でも、それだけだと状況証拠のみよね。物理的な証拠はあるのかしら?」
物理的な証拠は今の所見当たらない。でも、ここまで推理を披露した蜷川ならきっと見つけたに違いない。調べものと言っていたが、たぶんこの二日間その証拠探しをしていたはずなのだから。
「証拠は……ありません」
そう、証拠はな――いや! えぇぇぇ!? ないの!? 証拠ないの!? ここまできて!?
予想外の台詞に、また別の意味で口から声が出そうになるのを必死で抑える。
「証拠はない?」
「はい。これまでの事件は誰も見ていない、云わば死角の犯行ばかりです。決定的な証拠は残念ながら見つけられませんでした」
「そんなんでよく私を犯人と決めつけたわね?」
「先生が自白してくれると思っていますから」
「何もしてないのに自白もなにもないでしょ。まったく、時間の無駄だったわね。本当なら説教したり犯人呼ばわりされたから訴えることも可能だけど、聞かなかったことにしてあげる。話はこれで終わり。いいわね?」
締め括った池月先生がドア、私がいる入り口に向かって歩いてきた。足音が大きくなり、このままでは鉢合わせしてしまう。私は慌てて体を起こしその場から離れようとした。
「そういえば、先生の友達に
入り口に出る直前で、蜷川がそんな話を振ってきたのでそれを聞いた池月先生も足を止めた。
「いや~、中々可愛い人ですね。ストレートの黒髪に綺麗な瞳、透き通った肌。まさに清楚というのがピッタリはまる美しい女性ですね」
突然のべた褒め。蜷川は年上好き? いやいや、そんなことはどうでもいい。蜷川は何をしているのだろう? ここでなぜ急に池月先生の友達が出てくるのだろうか?
「でも、中身はてんでダメな人なんですね。人の迷惑も考えられず、自分のことばかり考える自分勝手な人間。美しいからといって何をしても許されるわけじゃないですよね~」
容姿を褒めたかと思えば、今度は内面を貶す蜷川。一体何が目的――。
すると、入り口の側にいた池月先生が踵を返し、蜷川の元へ戻っていった。説教するのだろうか。そりゃそうだ。自分の友達が貶されたら誰だって――。
――ガッシャァァァン!
池月先生が蜷川の襟元を強く握り込み、屋上の金網へこれでもかというぐらい押し付けた。
「それ以上……あの子を傷付けるな!」
今までに聞いたことのない、池月先生の怒号。あの優しい池月先生の顔が鬼のように怒りに満ち、まるで別人に見えたほどだ。
「あの子は……あの子は……誰よりも優しい子だ!」
そう叫ぶと、池月先生は蜷川の頬を叩き、地面に倒れた蜷川に蹴りや踏みつけを与え始めた。
先生!? 蜷川!
過ぎた行為に驚きながらも、私は飛び出し池月先生の腰に抱きついて必死に止めようとした。
「先生! やめて!」
「うるさい! 離せ!」
「いくらなんでもやり過ぎです! やめてください!」
「やめるもんか! 香那は……香那は……!」
「それが動機ですよね、先生」
痛みに苦しみながら体を起こす蜷川。そして、誰もが耳を疑うような真実を告げた。
「さっき言いましたよね。星野先輩と七瀬が七不思議をバカにしたから、と。その七不思議とは【中央広場ノ桜ノ木ニジョシセイトノ首吊リ死体ガブラ下ガッテイタ】。そして、そのぶら下がっていたという女子生徒は先生の友達、田島香那さんですね」
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