明かされる七不思議
屋上の推理劇
「私が犯人? ごめん、意味が分からないんだけど」
池月先生は当然の如く否定している。私も同意見だ。池月先生が犯人だなんて誰一人思わなかったはずなのだから。
「そのままの意味です。いや、正確にはこうですかね。七不思議の呪いに見せ掛けて星野先輩を車で轢き、神島先輩を脅し七瀬を階段から突き落とさせ、そして自殺するようにした」
えっ? えっ? ちょっと待って。星野先輩を車で轢いたのは池月先生だけど、七瀬さんを突き落としたのは神島先輩? でもそれは先生が脅したから? どういうこと?
「何それ? 冗談にしては笑えないんだけど」
「さすがに冗談でこんなこと言いませんよ。ちゃんと理由があって先生を犯人と名指ししています」
「へ~。なら、まずその理由を聞こうじゃない」
まるで開始の合図のように、ビュ、っと風が一瞬通り過ぎ、蜷川の推理が始まった。
「順序よく説明していきます。まず、七瀬が俺達セイタン部に依頼が来ました。依頼内容は、この白峰学園の七不思議について」
「あら。あなた達が七不思議を調べたのは七瀬さんがきっかけだったのね」
「ええ。七瀬が所属するテニス部で、続けて部員の仲間に不幸が訪れるようになったそうです。それは七不思議の呪いのせいだ、と。そして、俺達セイタン部はその呪いを解くため活動を始めました」
ここまでは私の記憶と大差ない。息を潜め、蜷川の続きに耳を立てる。
「最初は嘆きの音楽室。それから理科室の人体模型。屋上の鬼。桜の木の幽霊。今現在セイタン部で取り組んだ七不思議はこの四つです。その途中、星野先輩と神島先輩が七瀬と共にセイタン部へ顔を出しました」
そうだ。七瀬さんと一緒に体育館の不思議を経験した星野先輩と神島先輩が呪いを解いて欲しいと言ってきたのだ。
「そこで、俺達は共同作業をすることにしました。セイタン部は七不思議へ取り組み、七瀬達には情報収集をしてもらおうと」
「なるほど。七不思議の呪いは二週間という期限がある。作業を分担するというのは合理的ね」
「ええ。そしてある日の昼休み。セイタン部と七瀬達はそれぞれの活動を報告し合うため、桜の木に集合しました」
「そこで私はあなた達が七不思議について調べていると知ったのよね。でも、そう聞くと私が関わったのはだいぶ時間が経ってからよね?」
たしかに。蜷川は池月先生が犯人だと言うが、先生が私達に関わったのは事件が起きる直前と言える。犯行に及ぶのであれば準備など色々と用意がいるように思えるのだが、急に行えるものなのだろうか。
「そうですね。でも、それまでの時間は関係ないんですよ、先生。事の発端はその桜の木で起こったんですから」
桜の木で集まった時に? でも、何かあっただろうか? 池月先生にアドバイスを貰って進展したという記憶しかないんだが?
「別に何もなかったと思うんだけど……というか、君はその場にいなかったわよね?」
あっ、そうだ。蜷川は爆睡してて起きなかったから、池月先生がいたその集まりの出来事など知らないはずだ。なのに、なぜその集まりの時が原因だと言い切れるのだろうか。
「はい。その集まりに俺はいません。その時のやり取りは静――伊賀から聞きました」
「人のまた聞きに信憑性はないとは思うんだけど、それでもあなたは根拠があるというの?」
「はい。間違いないと思ってます」
「その根拠を聞こうかしら」
「単純です。星野先輩と七瀬がある事を言ったからです」
ある事? う~ん、う~ん……何か特別な事言ってた記憶はないんだけどな。
「そのある事とは、桜の木の七不思議をバカにしたこと」
……what?
一瞬、時間が止まったように私の体が硬直したが、池月先生の体も同じように硬直したように見えた。それから、深い深い溜め息を付いてから先生は受け答えた。
「七不思議をバカにしたから? そんな理由で私が生徒に怪我を負わせたと?」
「違いますか?」
「当たり前よ。別に私は七不思議にこだわりを持っているわけじゃないし。むしろ、あなた達にアドバイスをしたぐらいよ?」
「そうですか。認めてくれませんか」
「認められるわけがない。でも、まあいいわ。百歩譲ってそれが私の動機としましょう。たしか、さっきあなたは星野さんは車で轢き、七瀬さんは神島さんを脅して突き落とさせたと言っていたわね?」
優しい池月先生の声に苛立ちのようなものが含み始めている。でも、それは池月先生じゃなくとも誰だってなるはずだ。それほど蜷川の推理は呆れる内容なのだから。
「言いましたね」
「こう言ってはなんだけど、神島さんが七瀬さんを突き落としたのなら、星野さんも神島さんの犯行と思うのが自然だと思うんだけど?」
ごく正論を口にする池月先生。だが、蜷川は意に介さない。
「ええ。俺も最初はそう思いました。でも、それだと繋がらないんですよ」
「繋がらない、とは?」
「星野先輩が車に轢かれた後、神島先輩の態度は急変しました。あんなに七不思議にビクついていたのに、まるで嘘のように恐怖を抱かず、しかも星野先輩が怪我をして清々したとまで言い放ちました。あれじゃまるで私が犯人と言っているようなものです」
「それは彼女が犯人だからじゃないの?」
「でも、そうなると七瀬の件と自殺未遂が正反対ですよ?」
正反対? 何がだ?
同じ気持ちなのだろう、池月先生も頭を傾げて蜷川を見返している。
「七瀬の事件。あれは、七瀬がLINEで呼び出しを貰い階段から突き落とされたものです」
「そうね。私もそんな話を聞いたわ」
「その時、LINEは名無しのアカウントでした」
「なぜ名無しと?」
「七瀬のスマホを拾って見たからです」
「……女子のスマホを覗くのは褒められることじゃないわよ? まあ、それは後で注意するとして。その名無しのアカウントが何?」
「名無し、っておかしくないですか?」
「別におかしくはないでしょ。自分のアカウントで呼び出したくなかったんでしょ?」
「逆に聞きます。なぜですか?」
「それは自分に疑いを持たれたくないから――」
「星野先輩の事件で疑いが掛けられるような言動をしていた人間がなぜ七瀬の時だけ自分への疑いを反らすような真似をするんです? 自分が犯人だとバレていいと思っているなら自分のアカウントで呼び出せばいい」
蜷川の指摘に私はハッ、とした。たしかにその通りだ。犯行を隠すつもりがないのなら、わざわざ新しくアカウントを作る理由がない。
「そして自殺未遂。これも同様です。ここまで横暴な態度を示していた神島先輩が突然の自殺未遂。他のヤツは疑問を抱かなかったみたいですが、俺は納得できませんでした」
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