全ては蜷川の中に
調べることがあると出ていった後、蜷川は二日連続でセイタン部に顔を出さなかった。伊賀先輩や明里がLINEで連絡を取ってみたが、返事はなかったらしい。
「どうしたんだろうね、蜷川君」
「な、何を調べているんですかね?」
「それも聞きたいのに、返事がないからな~」
「ったく、私達にも教えろっての」
何も教えず単独行動をする蜷川に腹を立てる。同じセイタン部の仲間なのに、なぜ除け者にするのか。
「私、自分でも考えてみたんですけど、やっぱり神島先輩犯人説以外に答えが見つかりませんでした」
蜷川は違和感がどうたらと言っていたので、その違和感がどこにあるのかこれまでの情報を照らしてみたが、結局見つからなかった。
「私も。特にこれという部分はなかったわ」
「も、もしかして違和感がないことに違和感があった、とか?」
「どういう意味、りっちゃん?」
「ほ、ほら、ミステリーでよくあるじゃないですか。綺麗にアリバイがある人が逆に怪しい、という」
なるほど。たしかに他の人に比べて微塵も疑う部分がなく、完璧に白と認定されると際立って見える。
「となると、神島先輩は犯人じゃない、ってこと? えっ? じゃあ他に犯人がいる、ってこと?」
「そ、それは私にも分かりません」
「神島先輩じゃないとすると……うう~ん、誰も浮かばないよ~」
「まさか……星野さんと七瀬さんのどちらかが犯人?」
ええ!? 何言ってるんですか!? 二人は被害者ですよ!?
私だけでなく、明里とりっちゃんも伊賀先輩の台詞に驚愕する。
「な、何で星野先輩と七瀬さんが!?」
「これもミステリーであることなんだけど、被害者になることで自分を容疑から外す、というのが」
「でも、二人は入院してたじゃないですか。どうやって犯行に?」
「病院抜け出せばいいだけでしょ?」
そんな簡単に抜け出せるだろうか。でも、もし可能なら伊賀先輩の言う通り二人の犯人説も疑える。
「でも動機は? 仮に七瀬さんと星野先輩のどちらかが犯人だとすれば動機は何です?」
「神島さんと同じように、気に食わなかったから、とか?」
「そんな! 七瀬さんは依頼をした張本人だし、星野先輩だって部員の事を思って賛同したんですよ? それに、そんな雰囲気じゃなかったじゃないですか!」
「ごめん、それは私にも分からないわ。今のも咄嗟の思い付きだし、本当はどうかなんて……」
「んあー! もう分けが判らなくなってきたー!」
限界を越えた明里の叫びが轟く。それは誰もが同じに違いない。ただ一人、蜷川を除いて。
「くそっ、やっぱり蜷川に聞くしかない」
「探して聞き出そう!」
「さ、探すんですか?」
「そうね。なら、二手に別れましょ」
ん? 二手に? 皆で探せばいいんじゃないのか?
「実はテニス部の人から聞いたんだけど、今日七瀬さんと星野さんが退院したみたいで、テニス部に顔を出すらしいのよ」
「えっ、退院したんですか? でも、二人共意識不明だったんじゃ?」
「なんでも、一昨日辺りに二人共意識を取り戻して、順調に快復の兆しが見られたから退院したみたい」
そんな急に意識を取り戻すのだろうかと疑問に思ったが、伊賀先輩の先程の意見はこれが基づいていたのだと気付いた。二人はもっと以前から意識を取り戻しており、病院を抜け出していた、と。
「だから、片方はテニス部へ向かって二人に話を聞く、もう片方は祐一を探す。それでどうかしら?」
「分かりました」
「じゃあ、私と由衣が蜷川君を探します」
「了解。じゃあ、りっちゃんは私とテニス部へ」
「は、はい」
善は急げ。私達は早速行動を開始した。
※※※
「私は一階と二階を探すから、由衣は三階から上をお願い」
「分かった。見つけたらLINEで知らせるでいい?」
「オッケー!」
担当階を割り振り、私と明里は別れた。
小走りで私はまず三階を探していく。ただ廊下を渡るのではなく、各部屋のドアも確認して開いていれば中に入りくまなくを探す。
「くそっ、ここにはいないか」
三階は調べ終えたので、四階へと上がる。四階はクラスのある階なので教室はまだ開きっぱなしだろう。骨が折れそうだ。
あの野郎、見つけたら一発殴ってやる!
なぜ私がこんな苦労をしなければならないのか。そう思うと余計に怒りが増してきた。まだ見つけてもいないのに、右手は既に握り拳を形成している。
一部屋一部屋確認するも、蜷川の姿はどこにもなかった。そしてタイミングを図ったかのように明里からLINEが届いた。
【蜷川君いた?】
【いや、こっちはいなかった。そっちは?】
【私もまだ見つからない】
【もう帰ったとか?】
【いや、念のため蜷川君の下駄箱覗いたけど靴はあったよ】
【ってことはまだ学園内にいるわね】
【もう少し探してみよう】
【そうね】
その後、とりあえず十七時に一旦合流しようと決め、また蜷川捜索が開始された。
「あいつ、どこにいるのよ」
キョロキョロと目線を配るも見つからない。これはもう一度四階の隅から探した方がいいかもしれないと思ったその時、蜷川らしき人影が見えた。
「蜷川!」
大きな声で叫ぶも、どうやら届かなかったらしい。こちらに気付くことなく見えなくなった。
「やった。ついにこの右手が使える!」
目的は探す事だが、私の頭は殴ることが第一に成り代わっている。その目的のため、走って後を追う。
蜷川が消えた場所は屋上へ繋がる階段だった。根拠はないが、きっと屋上へ行っただろうという確信があり、私は一段飛ばしで上へと向かう。
屋上へ着くと、やはりというかドアが開け放たれており、蜷川がいることは間違いなかった。私は昇ってきた勢いのまま屋上へ飛び出そうとした。
「それで、こんな場所に呼び出して何の用? 蜷川君?」
聞き覚えのある声に、私はドアの前で急停止。壁際に身を寄せて耳を立てた。そして、思わず声が出てしまうほど驚いてしまった。
「グダグダ言うのも面倒臭いので単刀直入に。今回の七不思議に因んだ一連の事件。犯人はあなたですね、池月先生」
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