深まる謎
昼休みに新たな、そして重要な情報を池月先生から得られたのは幸運だった。偶然だったであろうが、OGの人から七不思議について話を聞けたのは大きな進展だ。
「七不思議の背景ときたか。静の言うように見落としていたな」
放課後、私達セイタン部は七不思議の背景について話し合いを始めていた。蜷川にも伝えると、納得の頷きを返している。
「あ、あと共通点があるとも言っていましたが、どんな共通点があるんでしょう?」
「え~と、場所は体育館、理科室、音楽室、プール、桜の木、屋上、と」
「全部学園内にあるね!」
「当たり前でしょ。学園七不思議なんだから」
「問題は、先生の言った通り何でこの六つが舞台になったか、ね」
とは言うものの、どこに共通点があるのかはさっぱりだ。校舎内のもあれば外にあるものもある。
「もしかして、隠された暗号があるとか?」
「暗号?」
「ほら、よくあるじゃん。全然無関係だけど、頭文字を繋げると言葉になったり、とか」
「ああ、あるね。七不思議の頭文字となると……」
す、り、ち、お、だ、じ。
なんのこっちゃ?
「じゃあ、下の文字とかは?」
た、た、た、た、た、る。
うん。これも意味不明。
「どうやら文字ではなさそうね」
「はぁ~、さっぱりだ~」
お手上げというように、明里はだらしなく机に伏せてしまった。
「由衣ちゃん、何か気付いたことある?」
「私も全然です」
「りっちゃんは?」
「す、すいません」
「祐一は?」
伊賀先輩が声を掛けるも、蜷川は返事をせずに顎に手を当てて考えに没頭している。私達はしばらく待つことにした。
「場所に意味があるのかもしれん」
「場所?」
ようやく開いた蜷川からはそんな台詞が出てきた。
「例えば、この六つの場所を線で結ぶとある一点で交差する。そこが七つ目の不思議の場所を示す」
「おお。なんかそれっぽい」
「ごめん、それはないわ」
残念そうに伊賀先輩が否定。どうやら既にその可能性を試していたようだ。しかし、交差する点は無かったとのこと。
「だが、ランダムに選ばれたわけでもない。この六つが選ばれた理由はたしかにあるはずだぞ、静」
「それは間違いないと私も思う」
「で、でも何が理由で選ばれたんでしょう?」
りっちゃんの疑問に誰もすぐに答えられなかったが、暫しの沈黙の後、明里が口を開いた。
「七不思議にちょうどいい、とか?」
「どういう意味?」
「いやさ、理科室と音楽室って七不思議の定番でしょ? 教室に入った時も暗くて不気味だったじゃん。だから選ばれたんじゃないかな~、なんて思ったの」
明里の意見は中々鋭そうに聞こえた。たしかに、七不思議というからには不気味さが重要だろう。怖さがない七不思議など誰も興味を持たないのではないだろうか。
「峰岸。一見それっぽく聞こえるが、考え方が逆だ」
「逆?」
「七不思議には背景があると池月先生は言ったんだろ? すなわち、七不思議を形成する元や根源が存在する、ということだ。七不思議を作るために選ばれたのではなく、各場所が集まって七不思議となった、と考えるべきだ」
何か混乱しそうになったので私は頭の中で整理してみた。
つまり、七不思議という枠で集まってはいるが、七つの場所は個々で捉えるべき、ということかな? クッキーの詰め合わせは詰め合わせでも、色んな味と形が入っているからそれぞれで楽しめる……みたいな?
「で、でもそれだと共通点という繋がりが出来ないような気もするんですが」
「そう。だからわけがわからんのだ。共通点があるからこそ七不思議が成り立つのに、背景という点から考えると共通点は後付けになる。矛盾してしまう」
「だったら七不思議を作るために選ばれた、の方で考えれば矛盾しないじゃない」
「それはそうなんだが……」
また唸って黙り始めた蜷川。その考えに納得できない様子だ。
「ああん、もう! さっぱりだよ! やっぱイケちゃん先生に全部教えてもらおうよ!」
「ダメだって、明里。忘れたの? 七不思議の答えを他人から聞いていいのは三つまでだ、って。でないと呪いの解呪はできないんだよ」
「こっそり教えてもらうじゃだめかな?」
「ダメに決まってるでしょ」
「ぐわぁぁぁ!」
頭を抱えて振り回す明里。しかし、明里の気持ちは痛いほど理解できた。
なぜ七不思議は存在するのか。池月先生はそれを強調していた。ただ謎を解くのではなく、背景を考えろ、と。
しかし、背景とは一体何なのだろうか。掲示されている七不思議は云わば表側。背景は裏側に当てはまる。その裏側をも解き明かせ、と先生は言っているのだ。
ただでさえ表側に苦戦してるのに、裏側までなんて無理難題もいい所だわ。
だが、やらなければならない。呪いを解くこと。それがセイタン部の受けた依頼なのだから。
「伊賀先輩。あと七不思議は屋上とプール、体育館が残ってますけど、今夜はどれを行きますか?」
「そうね……私の中では屋上に行ってみようかと思ってるんだけど、他のみんなは?」
「私は問題ないですよ」
「わ、私はプールに行ってみたいです」
「私は屋上!」
「俺も屋上だな」
蜷川が素直に意見を言うのが珍しく、私は感心した。
「その理由は?」
「スマホの美少女ゲームが佳境でな。ちょうど次のイベントが屋上だから予行練習をしたい」
私はバッグから教科書を取り出すと丸め、蜷川頭部目掛けて思いっきり振り下ろす。スパーン、という心地よい響きと感触が伝わった。
「いってーな、何すんだおい」
「せめてもうちょっとマシな理由を言え! 何が美少女ゲームだ! んなもんで選択すな!」
「バカヤロ。ヒメりんとの距離がグンと縮まる一大イベントだぞ。失敗は許されない」
「こっちだって失敗できないのよ! ちくしょう! 感心した私の時間を返せ!」
「知らねーよんなもん。というか、理由があろうがなかろうが最終的に両方行くんだから中身は関係ないだろ」
たしかに、と伊賀先輩と明里が頷く。
そうなんだけど! そうなんだけど! なんか納得出来ないのは私だけなのか!?
「屋上、か~。そういえば、私まだ屋上に行ったことないです」
「私は行ったの一、二回ぐらい行ったことあるけどね」
「どんな感じです?」
「別に普通よ。どこにでもあるようなコンクリートの屋上広間」
「お、お昼休みのみ解放されているんですよね?」
常時解放は危険ということで、食事の昼のみ解放してもらっているようだ。
「じゃあ、夜は開いてない?」
「となるわね」
「あれ? だったら鬼が見れないんじゃ?」
「正確には屋上の扉の前で鬼が現れると言われてるわ」
「身の丈もある金棒を軽々と振り回す盛り上がった筋肉。どんなものも突き刺してしまいそうな頭から生えた厳つい角。万物を噛み砕ける強靭な顎。扉の前にいたのはそんな赤と青の鬼だった。バトル系ラノベならこんな表現使うだろうな」
「いや、赤と青じゃ桃太郎じゃん」
「桃太郎! いいね! 四人の仲間を連れていざ鬼退治!」
「いやいや、そんな鬼だったら私ら束になっても勝てないでしょ」
「大丈夫だよ。きび団子型爆弾を投げれば」
……あれ? 桃太郎って爆弾使ったっけ?
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