七不思議の背景
池月先生、私達の先輩だったのか。いや、待てよ……となればもしかしたら!
「OGなら七不思議の答えについて何か知ってることありませんか?」
私が言いたかった質問を七瀬さんが先にした。同じ考えが浮かんだのだろう、池月先生に懇願の目を向けている。
「なるほどなるほど。あなたたちが暗い顔をしてたのは七不思議に苦戦してたからね」
「じゃあ、やっぱり?」
「ええ。白峰学園七不思議は私が学生の頃からあったわ。もちろん、私もそれについては知ってる」
「先生! お願いします!」
七瀬さんが池月先生の腕にしがみつく。しかし、返ってきたのは冷たい返事だった。
「ダメね」
「そんな! どうして!」
「七不思議の答えは自分で見つけなきゃ意味がないからよ」
「でも、その呪いのせいで今苦しんでいる生徒がいるんですよ!?」
「へ~。既に呪いを受けている生徒がいるんだ。可哀想に」
「何を他人事みたいに!」
「事実、他人事だからね。私は何かするつもりはないわ」
「体育館の不思議の答えは!?」
「ノーコメント」
「理科室の不思議は!?」
「ノーコメント」
「先生!」
池月先生は首を横に振るだけで絶対に口を割らなかった。
酷い。いくらなんでも冷たすぎるのではないだろうか。七瀬さんがこんなにも強く助けを求めているのに、それに対してこの態度。さすがに私も怒りが込み上げ文句を言おうとしたが、伊賀先輩一人だけ違う反応だった。
「なるほど。言っちゃいけないわけですね」
「えっ?」
何かを察した伊賀先輩が池月先生を見つめる。そして、池月先生も求めていた答えが出たからか静かに微笑んだ。
「七瀬さんの質問に対し、先生はノーコメントと言った。分からないではなくノーコメント。つまり、答えは知っているけど教えることは出来ない、ということでは?」
「伊賀さん、大正解」
パチパチ、と手を叩く池月先生。
「あなたたち、七不思議の解呪の方法は知ってるの?」
「二週間以内に七不思議全ての答えを解明すること、ですよね?」
「そう。でも、それに加えて他人から聞いた答えだけで解決してはならないという条件があることは?」
「は?」
そんな条件があるなんて初耳だ。七不思議に詳しそうな七瀬さん達も戸惑いを隠せていない。
「あらあら、大事なことなのに。今の生徒には伝わってないなんて」
「ちょ、ちょっと待ってください。それどういうことですか?」
「どうもこうも、そのままの意味よ。七不思議の答えは本来教えちゃいけないの。まあ、普通に考えたらそうよね。楽して自分の呪いを解こうなんて虫が良すぎるわけだし」
七不思議の答えを教えちゃいけない。それを聞いて私はハッ、となった。なぜなら、私達は音楽室の不思議の答えを七瀬さん達に伝えてしまったのだから。
私は七瀬さんに顔を向ける。すると、同様に青醒めた七瀬さんの顔が。
「あら、もしかして教えちゃったの?」
「は、はい……」
知っていたら教えなかったのに、と後悔するがもう遅い。タブーは既に犯してしまった。手遅れだ。
「いくつ?」
「はい?」
「だから、教えた七不思議はいくつ?」
「ひ、一つですが」
「なら大丈夫ね」
「えっ、大丈夫なんですか?」
「ええ。他人から聞いた答えだけって言ったでしょ? だから、七不思議の内三つまでなら聞いた答えでも問題ないの」
ぶはー、っと私達は安堵の息を一斉に吐き出した。
「もう、それならそうと早く言ってくださいよ。焦っちゃったじゃないですか」
「ごめんごめん。でも、こんな大事な内容が伝わってないなんて危ないわね」
「ホント。何で七不思議の話の中に無かったんだろ」
「時代の流れで不要とされていったとか?」
「いやいや、超大事なことじゃん」
呪いを解くための絶対的な条件のはずだ。だが、それを誰も知らない。おかしな話だ。まるで意図的に伝わらないようにした、と思うのは考え過ぎだろうか。
「でも、懐かしいわね。私も今のあなたたちみたいに先生に聞き込みしたり、友達とよく七不思議について話をしたわ。この桜の木の下でね」
池月先生が桜の木に目を向ける。柔らかな風が吹き、散り際特有のカサカサという擦れる音が奏でられた。
「皆でここに集まってあれに違いない、これが答えだと分析したわ。今みたいにスマホなんて無かったし、ゲームなんて娯楽もなかったから噂話とかに夢中になる時代でね。七不思議なんてど真ん中だった。呪いは怖かったけど、友達と一緒に何かをするという事が何より楽しかったわ」
本当に楽しかったのだろう、過去に耽る先生の顔は微笑んでいる。
「それで、あなたたちはどこまで七不思議を解明したの?」
「えっと、一つです」
「他のは糸口も掴めてないの?」
「はい。その場所には行きましたが、まだ答えは……」
「ふ~ん。ちなみに、どうやって七不思議の答えを見出だそうとしてるのかしら?」
伊賀先輩がこれまでの活動――夜に学園に侵入した事はもちろん伏せた――を伝えた。
「なるほど。一応、あなたたちなりに可能性を考えながら取り組んでいるのね」
「はい」
「でも、それだけでは不十分よ」
「不十分?」
「そう。その様子だと思い付かないようだし、先輩として一つアドバイスをあげる」
まるで授業をしているかのように、池月先生がピン、と指を立てた。
「七不思議の背景を考えなさい」
七不思議の……背景?
「あなたたちは一度でも考えたことある? 七不思議がなぜ存在するのか」
「なぜって、そりゃあ……」
だが、私はそこで言葉が止まった。なぜなら、七不思議とは元々あるものと認識していたからだ。存在の意味を考えたことなどない。
「それに、七不思議の舞台になっている場所。家庭科室や職員室と学園には他にも教室があるのに、その七つ、実際に提示されてるのは六つだけど、なぜそれらが選ばれたのか。答えられる人はいる?」
池月先生の問いに数秒考えるが、誰も答えることは出来なかった。
「つまり七つの舞台には意味、もしくは共通点がある、と?」
「私が言えるのはここまで。後は、あなたたちだけで答えを見つけなさい」
「厳しい~」
「何言ってるの。これでもだいぶヒントを与えてるのよ?」
「七不思議の背景、か」
「じゃあ、この桜の木で首を吊った幽霊も何か意味がある、ってこと?」
「学園で首吊ること自体に意味なんかないと思うがな。正直迷惑だ」
「星野先輩らしい意見ですね。でも、私も似たような感じありますよ」
「先生の言う通り七不思議の背景を考えなかったのは盲点ね」
キーンコーンカーンコーン。
そこで昼休みの終わりを告げる鐘の音が響いた。
「はい、昼休み終わりよ。全員教室に戻りなさい」
「は~い」
各自、腰を上げて自分の教室へ足を向ける。
「結局、神島先輩来ませんでしたね」
「自分で依頼したくせに。まったくあいつは」
「蜷川君には後で話せばいいよね、由衣?」
「やっぱり殴ってでも叩き起こせばよかった」
「な、殴るのはよくないかと」
「あっ、堀田さん」
私、明里、りっちゃんが校舎に入る直前、池月先生に呼び止められた。
「何ですか?」
「七不思議の解決、頑張ってね。応援してるわ」
「ありがとうございます」
「それと、あともう一つ」
「はい」
「次のあなたたちの授業って、体育じゃなかった? まだ制服のままだけど、急がなくて平気?」
「げっ! そうだった!」
私達は全力で階段を駆け出した。
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