可能性の列挙
次の日の放課後。
これまでの会議と違い、私達は七不思議の一つ一つを真剣に考える会議を始めていた。
「昨日の件で七不思議がどれだけ難しい依頼かみんな理解できたと思う。正直、私達はどこか依頼について舐めていた所があった。祐一の言う通り、改めてこれはガチで取り組まないといけないわ」
いつになく真剣な表情で伊賀先輩が会議を進める。黒板には七不思議全ての内容が書かれており、音楽室の部分は大きくバツで潰されていた。
「音楽室の不思議はとりあえず解決。桜の木についてはまだ解決できなていないから保留として、あと残るのは五つね」
桜の木の不思議は未解決。本来なら後回しにせず、すぐに解決を目指すべきかと思うが、たった一日では恐怖が拭いきれずにいた。なので、他の不思議から取り掛かろうと話がまとまった。
「今日はどの不思議に行きますか?」
「そうね。でも、それを決める前に各不思議について話し合おうと思うわ」
昨日のように、何も考えずに七不思議の現場に赴いてはいざという時に足取りが重くなる。これでは七不思議を目撃できないかもしれない。ならば、事前にその七不思議の答えとなる可能性をある程度用意し挑もうという結論に達したのだ。
「順番にいくわよ。まず二つ目の人体模型。これはどういう理由が挙げられる?」
「本当に勝手に駆け回っているとか? 例えば魂が宿っていてとか」
「なるほど」
明里の意見を伊賀先輩が黒板に書き記す。普段ならあり得ないと一蹴するところだが、今は真実味を帯びているように聞こえた。
「他に何か意見がある人は?」
「わ、私は誰かが持ち運んでいるのを見間違ったのではないかと」
「よくあるパターンね」
次はりっちゃんの意見。これも可能性の一つとして挙げられるだろう。
「でも、夜にわざわざ運ぶ理由は?」
「そ、それは分かりません」
「次の日に授業で使うから前もって運んだとか?」
「たしかに、それなら理由にはなりそうね」
「でも、それだと駆け回るという表現にはならないような」
人体模型はそこまで重くはないが、かといって抱き抱えて運ぶには苦労するだろう。それに、次の日に使うのであれば走って運ぶ必要もないはずだ。
「今は無理に答えと結び付ける必要はないわ。まずは可能性を挙げていきましょ。他に何かある?」
「そうですね……」
「実は人体模型ではない、という可能性もあるな」
「人体模型じゃない?」
蜷川の意見に私は眉を潜める。
「人体模型じゃなかったらなんだっていうのよ」
「ゾンビ」
「ゾンビ!?」
「あれだけの怪我をしていながら動ける人間などいない。いるとしたらゾンビだろ」
「や、やめてよ……」
「祐一、その可能性はどこから?」
「昨日YouTubeでな、ゾンビが学校を徘徊する中で生活する女子高生アニメを観た」
またアニメからかい!
「アニメは現実と違うでしょ。真面目に考えなさいよ」
「俺は真面目だ」
あ~、あんたはそういう性格だったわね。
「他に何かない? ないなら次にいきましょ」
七不思議四つ目の屋上の鬼。扉の前に現れ魂ごと喰われるという。
「鬼だから妖怪の類いかな?」
「屋上の扉が魔界と繋がってる、とか?」
「た、倒せますかね?」
「呪符が必要かもな」
鬼というワードのせいか妖怪説が飛び交い、それ以上の可能性が出てこなかった。
「鬼についてはこれぐらいかな。次は体育館ね」
「体育館でボールの跳ねる音がした……」
「七瀬さんが経験した七不思議ね」
依頼のきっかけになった七不思議の一つ。七瀬さん達テニス部の三人が経験した七不思議だ。誰もいないはずの体育館でボールの跳ねる音が響いたという。
「これは夜な夜な誰かが練習している説が挙げられそうね」
「となると、生徒の誰かでしょうか?」
「幽霊じゃなければな」
「自主練かな~」
「でも、ウチの学園は遅くても二十時には帰る決まりだよ?」
部活動に所属していれば力をつけたいがために、遅くまで練習をする者が少なからずいる。以前は二十一時まで可能だったようだが、そこで怪我をした生徒が出てしまったようだ。それを機に、学園は部活動は二十時までと設けたのだそう。
「それでも、隠れてする生徒がいるのかもね」
「鍵はどうするんです? 練習が終わったら顧問の先生に返さなくちゃならないんですよ?」
「合鍵を作ったとか」
「そこまで練習したい人いるのかな?」
白峰学園にはそれほど強い部はない。県大会までは行くものの、全国大会にまで結果を出している部は一つもない。
「でも、私はその気持ち分かるかも。結果がないからこそ頑張ろう、ってなる気もする。強豪に勝ったりなんかしたら一躍ヒーローだもん」
「そうなったら自慢になるね!」
「そ、それにカッコイイです」
一生懸命なにかに取り組む人はそれだけで魅力が溢れ出ている。部活だけでなく、仕事でもそうだ。毎日汗水流して働くその姿はやはりカッコイイ。私達はまだ学生だが、将来自分が仕事をする時にはああなりたいという願望がある。
「昔は熱血系は流行ったが、今のアニメの流行りはチート系だ。誰も振り向きもしないだろうにご苦労なこった」
予想通りというか、蜷川は共感しない言葉を吐く。
いや、アニメの流行りとか知らねーよ。頑張って汗を流すその努力の姿勢がカッコイイのよ。まあ、運動したことないあんたには一生分からないでしょうね。
この辺は体育系と文化系の違いだろう。お互いに理解できない部分が存在し、溝が埋まることはない気がする。
「最後はプールね。これも幽霊ってなってるけど、誰かが練習しているような気がするわね」
「でも、水泳部は二年前に廃部になったって聞きましたよ?」
明里の言うように、白峰学園には水泳部がない。部員が年々少なくなり、遂に二年前に廃部になったのだ。今は夏の授業で利用するだけになり、プールを使用する生徒はいないはず。
「となれば……本当に昔の部員が練習してる?」
「プ、プールの幽霊は事故で亡くなった水泳部員となっていますよね?」
「無念を晴らせずに練習してるの?」
「もしくは、廃部になった悲しみから泳いでるとか」
「だったら水泳部を復活させれば解決だね!」
そんな単純なら問題ないんだけどね~。
「あまりダラダラ話しててもしょうがないわ。今日はあまり時間がないし、とりあえずこれぐらいで。また可能性が浮かんだら言ってちょうだい」
伊賀先輩の締め括りで、会議は終了。ただ、気になる部分があった。
「伊賀先輩、時間がないってどういうことですか?」
「ああ。実は七瀬さんから連絡が来てね。セイタン部に話があるんだって」
「七瀬さんから?」
「七瀬さんともう二人の先輩が七不思議に逢ったって聞いたでしょ? その内の一人は怖くなって登校してない」
そういえば、と私は思い出す。
「その先輩がようやく落ち着いて登校したみたいでね。改めて三人で相談したいそうよ」
「なるほど」
「ここに来るんですか?」
「いや、図書室で待ち合わせしてるわ。時間は十七時」
時計を見ると、時刻は十六時五十分を差していた。
「うわ、もう行かないとじゃないですか」
「そっ。だからみんな準備して」
私達は慌てて荷物を手にする。
「いきなりすぎますよ。何で前もって言ってくれなかったんですか?」
「会議がここまで掛かるとは思わなかったのよ」
「静はたまに報告を怠る所があるからな。まったく」
「うっさい、祐一。私はこれでも忙しいんだから」
ペシッ、と蜷川の頭を叩く伊賀先輩を見ながら、私達は図書室へ向かった。
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