セイタン部と七不思議
準備は整った
翌日。私達セイタン部はいつも通りに集まると、依頼について早速行動を開始した。
「さぁ、全員集まったし会議を行うわよ!」
教室の黒板に大きく書かれた『学園七不思議! 絶対に解決してみせる! じっちゃんの名に懸けて!』という文字。伊賀先輩が教壇の前に立ちバンッ、と叩く姿を私達は椅子に座って眺めている。久し振りの依頼に気合いが入っているようだ。まあ、文面については皆スルーしてる。
「まずは情報の整理。昨日、一年生の七瀬さんから依頼を受けた。依頼内容は、所属するテニス部で相次いで不思議なことが起きている。それは、この白峰学園の七不思議の呪いによるもので、七瀬さんを始め二人の先輩にも今その呪いが掛かっているらしく、私達はその呪いを解除する。ここまではオッケー?」
「大丈夫です」
「オッケーです!」
「も、問題ありません」
私、明里、りっちゃんが順に頷く。
「よし。それで、この呪いを解除するには学園七不思議の全てを経験しなければならない。でも、七つ目はどんな不思議なのかは誰一人として知らない。つまり……」
「わ、私達はその七つ目を調べる、ということですね」
「その通りよ、りっちゃん」
「でも、どうやって調べるんですか~?」
「まあ無難に図書館で文献を調べたり聞き取りといったところね。でも、それだけだと遅い。なにせ今回は時間制限があるからね」
「二週間、ですよね」
二週間。長いように思えるが、実際は短いだろう。そう余裕を持つわけにはいかない。
「そこで、私達も学園七不思議を経験しようと思ってるわ」
「本当にするんですね……」
昨日の打ち合わせの後、私達はLINEで依頼をどうこなすかを話し合っていた。その中で、なんと私達も学園七不思議を経験しようという結論が出たのだ。
「調べてから七不思議に取り掛かるとたぶん間に合わない。だから、少し危険だけど同時進行で取り組む。昼間は学園で情報収集、夜は七不思議へ向かう、という形で」
「同時にとはハードですね」
「仕方ないわ。時間がない情報も少ない。そんな状況じゃ、噂程度のものでもすがるしかないから」
「六つの不思議を経験すれば七つ目の不思議が分かる、というやつですね」
ただ闇雲に七不思議に向かうのではなく、数少ないその情報を信じて取り組もうと私達は方針を固めていた。しかし、所詮は噂。やはり不安は拭えない。
「本当に合ってるんですかね、それ?」
「眉唾もんだけどね。でも、今のところ他に情報がないからそれを頼りにするしかない」
「間違ってたら? 私達、呪いを受けることになりますよ?」
「その時は……」
「その時は?」
「……その時よ。皆で仲良く呪いを受けましょ」
軽いぃぃぃ! そこは先輩らしく『私が皆を守る!』とか言うもんじゃないんですか!? めちゃくちゃ不安なんですけど!
「それに、時間がないのは七瀬さん達も同じ。彼女達はすでに経験してから三日経っていて、実質あと十日ぐらいしかないから」
そうだった。依頼人である七瀬さん達の身に危険が迫ろうとしている。悠長に構えている時間はないのだ。
「早速今夜から調査を開始するからね。皆、気合い入れていこう!」
「オー!」
「お、おー」
伊賀先輩の掛け声に元気よく腕を上げて答えたのは明里。私は恐る恐るというように、声は小さくゆっくり掲げる。
「まったく、由衣はどうして元気ないかな~。もっと立ち向かう態度を出さないと呪いに負けちゃうよ?」
「気合いでどうにかなるもんじゃないでしょ、呪いは」
「何言ってるのさ。病は気から、って言葉があるんだよ? 呪いだって気持ちから負けてたら始まらないよ」
「明里ちゃんの言う通りよ。問題にどう立ち向かうかで結果は大きく変わるものよ」
「そうかもしれませんが……」
「りっちゃんでさえやる気満々なんだよ? 由衣だけがそれってどうなのさ」
そう言われて私はりっちゃんの様子を伺う。そこには普段の怯えた小さな女の子ではなく、握り拳を作ってそわそわと落ち着きがない女の子がいた。
「まずは何から調査しましょうかやはりここは一から順に行くべきでしょうかいやそれはもう誰かがやっているでしょうから私達は別のルートで回っての検証もありかととなるといくつかのパターンが――」
「ちょちょ、りっちゃん待って」
「――はっ! す、すいません……」
自分の世界から現実に戻ったりっちゃんが申し訳なさそうに頭を下げてくる。
意外だったな~。まさか、りっちゃんがこういう怖い系の話が好きだなんて。
そう。なんとりっちゃんはホラー話が好きだったのだ。昨日のLINEで初めてその事実を知り、七不思議を経験しながら調査というのもりっちゃんの提案。普段は大人しいりっちゃんが積極的に調査に加わっている。ただの冗談だと思っていたが、今の様子を見る限り間違いなさそうだ。
「りっちゃんは何でホラー話が好きなの?」
「えっ? だ、だってワクワクしませんか? 次に何が起きるのか分からないとか、一体どんな未知の現象が現れるのかとか」
「う~ん、私には分からないわ。ただ怖いとしか」
「たしかに怖いのもありますけど、それさえ飛び越える魅力があるんです! それにその話にだってちゃんとした神聖な――」
「分かった! 分かったからりっちゃん落ち着いて!」
再び世界に入り込みかけたりっちゃんは目がら爛々と輝き、少し鼻息も荒い。かつてないほどに興奮していた。ちなみに、会ってみたい芸能人は稲川淳二らしい。
「頼もしい部員がいて助かるわ」
「ま、任せてください、伊賀先輩!」
「りっちゃん、カッコイイ!」
「カ、カッコイイだなんて……」
三人が和気相合と士気を高めている中、私は完全にかやの外だった。
はぁ~、何で皆そんなに楽しそうなんだろ。私はそこまで楽観的になれないわ。一応これ、正式な依頼なんだよ?
依頼を受けた以上、きちんと成功させなくてはならない。やってから『出来ませんでした』は通じない。それがビジネスだ。報酬だってもう貰っているわけなのだから。
そういや、蜷川はどう感じているのかしら?
報酬に一番喜んでいた本人がふと気になった私は、蜷川がいる方へ目を向ける。机に伏せて何やら取り組んでいた。
何やってんだろ?
周りが盛り上がる中、全く気にせず黙々と作業している蜷川。それは、声の収録時に見せたあの姿勢に似ていた。
どうやら蜷川も真剣に依頼をこなそうとしているようだ。何をしているのかは分からないが、例えば魔除けの札の作成とか、調査内容のまとめなど、蜷川なりに考えているのかもしれない。
こいつがここまで真剣に依頼と向き合うなんて……。
ただの声優好きなオタクじゃない。受けた以上ちゃんとセイタン部の一員として仕事をやろうとしている。私も見直らなくては。
「……よし、出来た!」
「何作ってたの?」
すると蜷川が満足気な声を上げたので、私は何を作っていたのかを尋ねてみた。
「ふっふっふ……これだ!」
胸を張り、私の前に差し出されたのは一枚のタオルだった。その真ん中にはカラフルな字で『MIZUKI ♡ NANA』と書かれている。
「何これ?」
「水樹奈々のライブに持っていく応援グッズだ」
「あ~、なるほど応援グッズ――って、んなもん作ってたのかよ! 依頼の何かを作ってたんじゃないんかい!」
前言撤回。こいつは腐っても蜷川だ。見直した私がバカだった。
「バカヤロ。あの水樹奈々のライブだぞ? 何も持参しないなど失礼に値する」
「失礼ってなんだ! その前に七不思議でしょうが! 依頼よ依頼!」
「そうだな。どの曲にどの色のペンライトを使用するのか、そして振り付けは公式ではないが暗黙の依頼だ。今日から徹夜して覚えねば」
「そっちじゃねぇよ! 七不思議の方よ!」
「ああ、奈々様のライブは客との一体感を演じる。あれは不思議な現象だな」
「話が噛み合わなぁぁぁい!」
「それで、りっちゃん。他にオススメの話は?」
「そうですね。有名なのは三重県にある墓地の話とか」
「おお、気になる気になる!」
誰かぁぁぁ! こいつらに黙らせる呪いを掛けてぇぇぇ!
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