1.11 事前準備4
加川はずっとコントローラーを両手に振りながら、一人ごとを喋っている。まだしばらくかかる様子のようだ。
安田は吉岡のところへ話に行った。談笑した後、喜連川のところにいって、何かをお願いしている。
首藤も本日中にやるべきことは終えたので、桐谷とトイレやシャワー、キッチンやバーカウンターを確認し始めた。
水は問題なく使える。備え付けの冷蔵庫の電源が抜けていた。冷蔵庫の扉を開けて、空であることを確認した。
「中も少し汚れてそうだな。まずは掃除か。」
首藤が携帯していたウェットティッシュを取り出そうとしたとき、家電量販店でもよく見かける掃除ロボットがこちらに向かってくるのを見つけた。
「なんで、こんなものが。」
「俺のっすよ。」
加川がニヤニヤして、首藤と桐谷のほうを見て、リモコンを振り回している。
「そいつ、掃除もできますけど、こちらからラジコンのように操作もできるし、なによりカメラも仕込んでいるんでね。動体を検知したら、通知させたりもできますよ。夜中のうちにざっとフロアの掃除と、廊下を走らせて見回りさせますよ。」
そういって、掃除ロボットをキュルキュルと走らせてみせた。桐谷はこいつも相当にクレイジーなやつか、と心躍らせた。
加川が吉岡のところに向かった。吉岡は加川からメガネを渡される。体を動かすとパソコンのモニターに映る美少女キャラも同じ用に動く。吉岡が手を挙げても、美少女キャラは手を挙げないが、吉岡と同じタイミングで瞬きや口を動かす。
さらにワイヤレスイヤホンマイクを装着して、吉岡が話してみせる。
「こんにちわ」
『こんにちわ😽』
「どうしてやろうか」
『どうしてやろうか😈』
「てへぺろ」
『てへぺろ😜』
美少女キャラらしい可愛い声、そして加川がチューニングしたからなのか甲高い声、だけど長く聴き続けていると耳にまとわりつくような不気味さすら感じる声、そんな声が吉岡と同じ口の動き、同じ表情で喋る。
喜連川が吉岡の一連の確認作業を見ていた。
「C3のほうもバッチリですよ。あとはバーチャルキャスト用URLと録画した動画のURLを埋め込めば、今日の作業は一通り終わりですね。」
「あんたたちの活動内容を聞いて、そのイメージを俺なりにキャラクターデザインして、声も調整したんだ。一応、キャラクター名は『
加川はそういって、ハンドコントローラーを振ってみせた。暗野まみも手を振ってくる。
「ほな、バーチャルキャスト用に動画を作るか。いうても、リスナーがC3に訪れてきそうな食いつく内容やな。さっとアンチョコ作るか。」
「アンチョコってなんすか?」
「あ?あー、カンペみたいなもん。」
関西弁は時に深い、そう桐谷は感じた。
「俺は先に例の件、済ませますね。」
「あ、僕も手伝います。」
安田と喜連川は二人で相談しながら、パソコンとにらめっこしている。
「じゃあ、僕らは、フロアは加川さんの掃除ロボットが掃除してくれるとして、冷蔵庫の中はさっと掃除してしまいますか。」
そういって、首藤と桐谷は早いこと掃除をすませる。
来る前にコンビニで買っていた飲み物を冷蔵庫にいれている最中に、吉岡がバーチャルキャスト用の動画を取り終えて、みんなに呼びかけた。
「みんな、見てくれ。」
そういって、加川が動画を再生する。
『あはーっ❗みなさーん❗こんにちわ✌暗野まみでーす🙋
突然ですけど、みなさーん❗清く正しく楽しく生きてますかー❗❓あはーっ❗
私、暗野まみが❗ここに降臨した理由はですねー、警察が事件化なんてしない👻、あるいは事件化しようともしない🔫、そんな悪い人をですねー❗💣
社会的に抹殺するために降臨しましたー❗あはーっ❗今日は告知でしたー❗🙇
あ、殺人なんてしないです👮 悪いことしたら暴かれるんだよー🚓悪いことしたら駄目なんだよー🙅近々、このサイトにあげていく予定だよー😻 じゃあねー❗暗野まみでしたー💄、あはーっ❗』
全員が笑い転げた。吉岡と加川は見合ってガッツポーズしてみせた。
バーチャルキャストで配信するときの手応えを感じて見せた吉岡は動画をアップロードし、URLを喜連川に共有する。喜連川はWebサイト"C3"に動画を埋め込んだ。タイトルに、"Cyber Consentration Camp"と題されて暗野まみの動画にURLもリンクされて配信される。
「さあ、明日から他のメンバーとも合流して、本格的に動くことになるけど、軽く前夜祭といこうやないか!」
「うぇーい!」
Webサイト"C3"のアクセスカウンタが徐々に増え始めた。
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