そこには痕すら残らない

枝に首を吊った秋の萎れた木葉たち


置きざりにされた老婆のような顔をして祈っていた


風は吹きすさびそれらをもてあそ


しかし、だれだって


あの枝の渇いた肉の痛みなど、わかるまい


そうやって首絞めることに喜びを感じるはずもなく


寒い、痛い、皮膚に食い込む冬の風に


透き通った優しさで焦がされながら


ちりちりと焼けてゆく樹皮の裏に……


枝葉は憎み合いやがて別れる


***


僕と君は既にお終いだった


秋の終わり、枝と葉はばらばらになる


他方は生き、他方は死ぬ


それが、わかるか?


僕はいつだって宙を舞っている


着地点の見当たらない不安に焦がされながら


まるでメンソールのような透き通った痛みで


それは僕から冬眠を奪ってゆく


そして、ゆっくりと落ちている


抗えるはずのない重力に引きずられながら


空に昇る夢を見る


風は時たま、僕を上の方に押し上げてくれる


だけれど、雲はまだ遠い


遥か数キロの先に、浮かぶあの白い自由は


やがて灰色の陰気なねずみの這いずり回るただの下水に代わってしまう


空も色を失い、ゆっくりと下の方に降りてくる


俺はそこでようやく出会える


雪の降りしきる、寒く、凍りついた大地に


雲のちぎれた端くれたちと、白い火山の吐き出した綿埃わたぼこりのような屑たちと


雲のほつれた糸先と、戯れる


ゆっくりとまぶたつむ


薄らぐ意識をもてあそぶ風に転がされながら


僕は待っている


ゆっくりと、大地がこの身体をすっかり解体してしまうのを……


そこには痕すら残らない

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