Ⅱ 中学時代の雨宮さんにまつわる話
放課後。
息を吸うようにゲーセンに誘ってきた倉田の誘いを
その人物とは他でもない。雨宮さんだ。
今日の朝、百瀬は、今日という日に雨が降ったのは彼女のせいだと断言しきった。
百瀬は、中学時代は概ね楽しかったが、一つだけどうしても解せないことがあったと語った。
それは、皆が楽しみにしている行事がある日には必ずといっていいほど大雨が降って、中止になったことらしい。
『遠足も、体育祭も、ぜーーったいに雨が降って中止になっちゃうの。ほんっとに、最悪でしょ? うちらの学年って、なんでこんなについてないんだろうねってみんなで嘆きあってたわ。ところがね、中学三年の春の体育祭だけは、奇跡的に雨が降らなかったの!』
今年もどうせ雨だろうと半ば全員が諦め気味だった中での久しぶりの晴天。まさかの冴えわたるような良い天気に生徒一同は狂喜乱舞し、涙を流して喜んだらしい。
流石にそれは大げさだろうと悪態をつきたくなったが、話の続きが気になったので大人しく黙っていた。
『でも、毎年、ありとあらゆる行事の度に当たり前のように雨が降っていたのに、なんでその日に限って雨が降らなかったんだろうって皆が疑問に思ったわ。それでね、その日、いつもと変わったことといえば……雨宮さんが欠席していたことぐらいだったの』
その日体育祭を欠席していたのは、全学年の中で雨宮さん一人だったという。
まぁ、この話の流れから察する限り、そうくるんだろうなとは思ってたけどさ。
『でも、そんなの偶然じゃないか? たったの一日自分が休んだ時に晴れたぐらいのことで全校生徒から雨女扱いされたら、雨宮さんもたまったものじゃないだろ』
そう口を挟んでみたものの、百瀬は怯まなかった。
『でも、仮説を裏付ける証拠はそれだけじゃなかったのよ。その日、普段、雨宮さんと仲良くしていた大人しめの女子グループの子たちが、そういえば、皆で遊びに出かけようと決めた日は必ずといっていいほど雨が降るという話で盛り上がり始めたの』
そして、彼女たちは一度、雨宮さんを仲間はずれにして出かける約束をしたのだという。
それはきっと、ほんのささやかな好奇心だったに違いない。
しかし。
幸か不幸か、奇しくもその日に限って、晴れてしまった。
人の口に戸は立てられぬとはよく言ったもので、その噂は瞬く間に全校生徒中に広まった。そうして彼女は本人のあずかり知らぬ間に、その名を全生徒に知らしめたのだ。
曰く、雨宮 琴音が参加するイベントには、必ず雨が降るのだと。
『はあ……高校まであの雨女と同じ学校とか、ありえねー。ほんと尽いてないわ』
『マジかよ。漫画みてーな話だな』
ケラケラ笑う倉田に対して、『はあ? 信じてないでしょ! ホントなんだからね!』とむくれる百瀬。
オレ一人が、雷に撃たれたかのような衝撃に貫かれていた。
二人のしょうもないぼやきなんて全く聞こえなくなるぐらいに、動揺してた。
あの時、一限目の始まりを告げるチャイムが鳴ってくれなかったら、きっと抑えきれぬ興奮を隠しきれなかっただろう。
もしも、百瀬の話が本当ならば、オレはなんとしてでもあの子と話をしなければならない。
全身の筋肉を燃えてしまいそうなぐらいに酷使して、猛然と階段を駆け下りる。
昇降口までたどり着いた時、やっとのことで、俯き気味でいそいそと小走りで去っていく彼女の姿を発見した。
「雨宮さん! ちょっと待って…………!!」
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