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 結局のところ、あれが夢なのか、それとも走馬灯の代わりに見えた何かなのかは分からなかった。

 そんなわけで現世に戻ってきた僕は立ち上がった。周りの人は驚いてる。

 アキは泣いている。驚きのあまり泣いている。いや、先程まで僕が死んでたことに対する涙だったのか。

「ただいま。アキ」

「グスン。おかえり。ヤマタケ」

 こうして僕は、僕達は再開を果たした。

 結構呆気ないなだと?いやいや、僕自身まだ心の整理ができてない。平然を装ってカッコよく「ただいま。アキ」なんて言ってるが、僕の内心は「えええ!?なんか生き返ったァァァ!!ホワッツホワッツ?」であった。

 やはり僕は逆境に弱すぎる。今起きていることについていけない。

「ね、ねえアキ、僕ってさっきまでとんな感じだった?」

 と、恐る恐る聞いてみると、

「え、ちょっと思い出したくないんだけど…えっとねぇ、ヤマタケは車に跳ねられて、で、まあ、色々と吹っ飛んだんだよね。内臓系が…」

 あっ。そんなにやばかったのか。

「そして血飛沫とかがヤマタケから半径1メートルぐらいに広がってて、で、私が、……して…」

「ん?何だって?」

「だっ!だから!人工呼吸…」

 と小さな声で照れたようにして言った。

 それを聞いた僕は言うまでもなく赤面してしまう。それと同時に口の臭いを確認する。良かった。前日に餃子を食べてなくて。

「っで!心臓マッサージとかもしたんだけど、ヤマタケが動かなくて、周りの人が心配してくれて私の代わりに救急車呼んでくれたんだけど、その3分後にいきなり身体から出てったもの全部が気化して消えていって体の穴がいきなり塞がっていったの!そしたら心臓も動き出して、それで今に至るわけで」

 なるほど。走馬灯ではなかったらしい。僕は死んだ後、身体が復活したらしい。じゃあ閻魔様の言う通り、とりあえず2日過ごしてみようと思う。

「そうか。ありがとな。アキ。本当に心配かけた」

 涙がだいぶ収まってきて落ち着いてきたアキは「うん」と応えた。しかし頭の中は混乱しているのだろうと口数の少なさから察せられる。

 と、そこで僕は周囲を見て気づく。

 うわっ。まじかよ。周りの人めっちゃ見てんじゃん。てかなんかテレビ局とかも来てるし。そんな中僕たち喋ってたのか。恥ずかしい。

 と、思ったのもつかの間、それは奇跡を見る目ではなく、畏怖の目であった。

 もちろんそうなのだろう。僕自身、死んだはずなのに身体が戻っていることを奇跡だと感じてはいるが、それよりも僕の身体の他人との差異―異端性に対しておぞましいと思っている。

「嘘だろ。あいつなんで生き返ってんだよ」

「え、やばくね?はっ?怖い怖い」

「ダメよ見ちゃダメよ」

 周囲の声が響く。まるで僕がこのような異端な存在としていることが悪いかのように言われる。

 僕は悪くない。閻魔様も言ってたようにあの光が悪いんだ。なんで僕が恐れられなくてはならないんだ。おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいッ!!じゃあお前ら1回死ねよ。お前らも同じように見られるから。死ねないなら僕が殺してやるよ。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺…

「うるさいっ!!」

「なんでそんなことを言うの!!もしもあなた達がヤマタケ…彼みたいな状態になって同じようなこと言われたら嫌でしょ!もうどっかいってよ!静かにしてあげてよ!」

 アキが叫んだ。気さくで陽気な彼女だが、叫ぶところを見たことは今まで無かった。

 女子高生がいきなり叫んだことにオーディエンスが黙り込む。

「な、なあ、帰ろうぜ」

「でも気持ち悪いんだよ」

「あれって人間なの?」

 という置き文句を残し彼らは去っていった。救急車を残して。

「あ、ありがとう。アキ」

「ううん。周りがうるさすぎて叫んじゃっただけだから大丈夫。でも私も黙ってたけれど、やっぱりちょっと怖いよ」

「あのー」

「確かにそうだよな。信じてもらえるか分からないんだけど、ひとつ聞いてほしい話があるんだ」

「あのーすみません!」

『はっ、はい!』

 僕達は声を揃えて驚いた。

 声の主はレスキュー隊の人だった。

「あ、すみません。あのですね、怪我がないと分かってはいるんですけれど、一応病院に送りますので。検査のために。だから乗ってもらえませんか」

「はい。いいですけど」

「了解しました。先程の場面を見させていただきましたが、神の御業のようでしたね。体の再生。ホムンクルスみたいです。いや、ミミズのようですね」

「比喩のレベルの変化が…」

 そんな訳で僕達は救急車に乗った。僕が負傷者役で、アキ付き添い役で。

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