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 そんなわけで僕の人生というものは終わった。僕は親よりも早く他界することになった。よって僕は地獄送りなのだろう。下の方に僕が見える。そこにはアキもいて彼女は泣いている。

 あ、今僕霊体なんだ。今から閻魔大王の所に行って、天国か地獄か決めるのか。僕はどうせ地獄だろう。高校生って子供とみなされるのかな?血の池地獄とかよりは石を積んだ方が楽な気がする。

 僕の意識はその場所。つまり、事故現場から離れていく。なにかに引っ張られる。

 そういえば走馬灯見なかったな。小説とかマンガで親との記憶や友達との記憶を見て、死ぬキャラクターが多いのに僕は見れなかった。僕は主人公にはなれない。

 そんなこんなで川の前に着いた。皆さんご存知三途の川だ。

 渡し舟がある。一隻だが。しかし、人はいない。

「あれ、誰もいないのか。え、身体がないのに自分で漕げってこと?」

 ブツブツ呟きながら、舟の方に行く。

「おいおい、何を言ってるんだい?ここにいるじゃねぇかここに」

 と声が突然聞こえる。辺りを見回すも、人は見えない。それもそのはずだった。そう。は見えない。それはそこに最初からいたのだ。ただそれは大きすぎるが故、僕は風景の一部だと認識していた。いや、これを風景でないと否定したくなかった。

 それは果たしてあの閻魔大王だった。川の向こうに見える、山だと思っていたのが閻魔大王だった。

 彼は地面に座っているも、背は雲の高さまであった。

「うわっ。え?ちょっと、理解できないんだけど、え?」

「いやいやそう慌てんなって。自己紹介ぐらいさせてくれよ。何を隠そう、私が閻魔大王だよ」

「いや、冠に書いてあるから隠してないですよ」

「え、嘘?うわっ。ホントだ。くっそ、部下のやつめ、『今日の主役』みたいな気分で付けるなよ。恥ずかしいじゃんか。あ、いつもは付けてないんだよ。ホントだからな!」

 と言いながら『閻魔大王』の文字を剥がす。

 え、それってシールだったの?

「まあ、折角ここに来てくれて悪いんだが、現世に帰ってくれんか?」

 と衝撃的な事をいきなり言い出した。

「はあ。え?どういうことです?僕死んだんですよね?」

「ああ。君は確かに死んだよ。バイクに轢かれて。実際あそこで車に轢かれなくても死んでたからこう言ってるんだけど」

「で、僕は今から地獄に行くんですよね?親より先に死んだから」

「まあ、それが地獄ルールだからそうしてもらいたいんだけどねぇ。でもちょっと色々さとあってね。君は死ねないんだよ。いや、君たち人類は死ねなくなっちゃったんだよ。山本健君。君たち人類はさっきのあのあおい光のせいで死ねなくなったんだよ」

「は?ちょっと何言ってるか分からないです」

「いや、私も調べてるんだけどさあ、今みんな死ねなくなったらしいんだよ。それだけは分かるんだけどさあ。あ、あと、これが人間によることであるってことも分かってたわ」

 ちょっと待て。理解が追いつかない。

 あの光が人工のもので、人類は不死になった?

「あー、ちょっと惜しいな。不死じゃなくて不老不死。だから、君たちはこれから成長もできない」

「え、本当ですか?じゃあ僕はまた人生を謳歌できるんですか?」

「いや、君に限っては謳歌していなかっただろ…まあいいや。確かにそう捉えることができるかもしれないね。でも不老不死によってとある弊害が起こるのを知っているかい?」

「いや、知りませんけれど、何かあるんですか?僕達死ななくなってハッピーになっただけじゃないですか」

「いや、色々とあるんだよ。ほとんどの人はそれを気にせず人生を永遠に謳歌できるだろう。しかし、それをできない人もいる。だからお願いがあるんだ。ノーリミットになった人間の命をもう一度元に戻してくれないか?残念なことに君があの光のあとに死んだ人間第一号なんだよ。君に頼みたい」

「え、嫌ですよ。なんでですか?不老不死。いいじゃないですか。最高じゃないですか」

「まあ、君がそう言うだろうとは予想していた。じゃあこれだけ。ふたつだけ聞いてくれ。もしもし君がこの任務を遂行できたらなんでも願いを叶えてあげよう。一個だけど。もちろん、『2個に増やして』なんてのはナシだぜ。あと、不老不死なんてのもナンセンスだからだめだ。もうひとつは、君には一旦元の世界に戻ってもらう。そしてそこで君が今の世界をどう思い、そして不老不死をどう思うかを知るために二日間いつも通り生活してくれ。すぐにみんな知るんだから人類が不老不死になったことを。そんで君がこの世界を嫌いになって、元の世界の戻したい。不老不死を無くしたいと思うなら、二日目の二十三時に自分の心臓を貫いてくれ。包丁でもハサミでもなんでもいい。そしたらまたここで話そう。じゃあ元の世界に帰りなさーい」

「えっ、ちょっと待って、って、ウワァー!!」

 僕は、僕の霊体は閻魔大王によって投げ飛ばされた。

 戻ってくるわけないだろ。不老不死万歳。

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