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 そんな夢を見た。

 たったの五分でどれだけ長い、まるで大長編ドラえもんのようなストーリーを見たんだと思いながら、チャイムの音とともに顔を上げる。

 夢十夜ならぬ夢五分。

 急いで席に戻る生徒達。僕の前を通る時、大半の人が顔を見ていたので、額を圧迫したせいで赤くなっているのではと考え、したの方を向いて、クラスメイトに顔を見られないようにする。

 恥ずかしい…



 今日は始業式ということで、特に何も無く、半ドンだった。一つだけ嫌なことがあったが、それは高校教師大好き、進路指導だった。「自分の道なんだからお前ら首突っ込むなよ!」なんていうような年齢ではないので、そこまでは言わないが、ここまで口を酸っぱくして言われると、流石に思うところがある。進路指導に時間をとるよりもその分を授業に使えば良いではないか。そっちの方が実に有効的だ。

 しかし、実際のところ、僕は高校受験の際、学区トップの高校に入りたいが一心に勉強をしていたので、ここ、山城宮学園のことをきちんと調べておらず、この高校の長所と短所を入学後に知ることになった。髪型統率なんて、昭和かよ。

 しかしこの先生の心のこもった(?)話に感銘を受ける生徒が一人いた。紅葉花有希だった。

 彼女は勤勉だとか運動神経が良すぎるとかそういう特技はなくとも、人の話を真摯に聞くという現代人に欠如している心構えを持っている。

 僕はそんな彼女の特性に惹かれて中学校から友人として付き合っていたのかもしれない。

「ごめんヤマタケ!私受験に向けて参考書買いに行くから今日一緒に帰れない!」

 と、アキが頭の前で手を合わせて謝罪してきた。影響早すぎるだろ。

「まあ、いいよ。じゃあまた今度一緒に帰ろうか」

「え?ああ。もちろん!じゃあまた明日!」

「うん。また明日」

 こうして僕達は別々に帰ることになった。

 一人で帰路を歩む中、僕も受験について考えていた。

 僕には夢というものがない。強いて言うなら大学に現役合格することだ。しかし、実際、僕は志望する学校で何を専攻し、何のために学び、それを何に活かすのか分からない。自分自身、成績面においては学校でも上位の方だが、他の人には負けているといつも思う。具体的未来図が皆にはあるのに、僕にはない。

 とりあえず起き、とりあえずご飯を食べ、とりあえず勉強し、とりあえず娯楽をし、とりあえず寝る。

 言い方を良くすれば一日一日を大事にして生きているのだが、実際将来のことを考えることから逃げているだけだ。

 そんな自分に抵抗感があるが、行動を起こせない。結局僕は逃げるだけの人間の底辺であり、生きる価値のない人間だ。夢はあるがそれを実行できない環境にいる人々や経済的な面で叶えられない人もいるというのに。僕なんて死ねばよい。

 日常、クソ喰らえ。

 大学に行けば、将来は安定した生活が約束されるのか。偏差値が高ければ、地位が上がるのか。

 違うだろ。結局求められるのはセンスだろ。特技だろ。そして、他人との交渉を円滑にするためのコミュニケーション。僕には全て欠如している。

 僕なんてやっぱり生きる価値なんか無…っと、自分を卑下しすぎても意味が無い。こんな風に社会が自分に合ってないなんて言ってたらそれこそエゴイズムだ。なにかポジティブな話をしよう。

 そう思っていた時だった。

 身体が一瞬だるく、重くなった。気がする。

 すると周囲にいた会社員や学生達もなんだか変な雰囲気だ。

「なんじゃ。あれは…」

 後ろにいたお爺さんが右手に持っていた杖を天に向かって突き刺す。そちらを見ようと空を見てみると、

 そこには、

 青い光が、

 一本、僕らの街を呑もうと、

 迫ってきていた。

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