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「あんたお弁当持ったかい?今日は雨は降らないと思うから傘はいらないよ」
「わかってる分かってる。じゃ、行ってきます」
長々と。いや、そこまで長くはなかったかもしれないが、あの前置きのあとにどういう展開?と読者の皆様はお思いだろうが、僕もこの時、この日何が起こるのかわからないという状況なので、付き合ってもらいたい。
その日、つまりとある平日に、いつものように起き、母の作ってくれた朝食を取り、用意されていた弁当を持ち、学校に行ったのだった。
山本健。これが僕の名前だ。僕の家は、3人家族だが、父は単身赴任でどっかに行ってしまい、ほとんど帰ってこないし、連絡もほとんど寄越さないので、実質母と2人で暮らしている。
高校には私立山城宮学園に通っており、第一志望校を落ちた身としては、肩身が狭く、さらに私立高校ということもあり、親にかなりの負担をかけていることになる。
そんな僕も今日から高校二年生になり、少なからず気分が高揚していた。
いつものように音楽プレイヤーで音楽を聴きながらスマホをいじりつつ投稿している。
ところでだが、スマートフォンで音楽を聴くことに抵抗がある。別にこれは音楽プレイヤーを持っているからとかではなく、ただ自分は機械の知識は人並み程度であり、外で音楽を聴くと通信料が取られるのではと思っているからだ。でも、周りの人を見ると皆スマホで音楽を聴いているので、実際は通信料はそんなに取られないのではと薄々感じているが、この音楽プレイヤーを買ったこともあり、外でスマホにイヤホンを刺すことが無くなった。―まあ、実際、音楽プレイヤーは廃れてきていると言われてたりするので、スマホで聴く人が多いのだろう。
そんな訳でSNSを見ているとある記事に目が止まった。
『日本各地に謎の光と雲!神降臨か』
といういかにも嘘っぱちな記事があった。
それは雲が輪上になっており、そこから青い光が差している写真だった。雲の大きさを自分は確認したこともなく、実際、計測できるのかと思っているので詳しい大きさは分からないが、見た感じだと、二町分くらいの大きさだろう。
しかし、青い光が空から指すというのはオカルトチックなものだった。まあ、これが一つ二つの地域での現象であれば特に気にすることはないが、各地でとの事なので、何かしらのことがあるのだろう。
一応僕は『謎の光と雲 世界』で検索したところ、何件かマッチするものがあった。ヨーロッパにアジアにアフリカ、南北アメリカ、オセアニア。どこでも起きている現象らしい。
これはただならないことだ。どうにかしなくては。と思えど自分の力量ぐらい弁えている。
こんな高校生がどうにかしようとした所で誰も手伝ってはくれないだろうし、手伝ってくれても、次の行動が思いつかない。
こういうことはどっかの教授や研究者に任せればいいかと思い、他のニュースを見る。
『山王大学北山教授チーム老化防止細胞ついに完成か』
『声優の桜花夏菜子さん、休業か』
『少年チャンプの人気恋愛漫画ついに実写化』
などなど。正直に言ってどうでも良い。自分にとって興味のないニュースばかりで嫌気がさしたので、スマホの電源を切り、歩みを速める。
歩きスマホをするよりも普通の方が2倍早く歩ける気がするんだよな。それでもスマホを弄るのは、それだけ現代人が依存していることが分かる。
そんなこんなで学校に到着。
うん。いつも通りの私立山城宮学園だ。
何に納得してるのか僕もわからないが、とりあえずいつもと変わらない。―結局万物が変わらないことが安心の根源なのではと思う。
万物は流転する?
盛者必衰?
クソ喰らえ。
しかし、そんなことを言いつつも結局全て少しだけでも変わっている。流転している。
僕自身、いつも細胞が死んだり生まれたりするし、学校も、傷がついたりと、変化する。
高校生でこれを言うのはどうかと思うが、老いたくない。歳をとることが怖い。
周りの人間は早く成人して、酒だのタバコだのをしたいと言うが、僕はずっとこのまま、子供のままでいたい。
死ぬのが怖い。
しかしその反面、僕も成長しなければならないなと度々思う。例えばこの歳をとりたくないという考えとか。
まあ、誰もが皆、恐怖を覚えているから、その日を楽しめるのではないか。と、思う。
「おはよぉーヤマタケ!」
と、後ろから肩を叩かれ、声がした。
イヤホンを外しながら振り向くとそこにはアキが立っていた。
「おう。おはようアキ。いつものように元気いいな」
「いやいや、私は普通だよ。アンタが元気なさすぎるんだろ?」
「そんな訳あるかよ。超元気。スーパーファイン。元気ハツラツ、チオビタンDだよ。」
「そ、そう?ならいいけど。てか、クラス発表見た?私三組なんだけど…」
と、アキこと、紅葉花有希。―彼女は僕と同じ中学であり、昨年度。つまり高校一年で、同じクラスだった。積極的に話すタイプの人間でなかった僕に、高校進学後もよく話しかけてくれて、僕を孤独から救ってくれ(大袈裟だが)、クラスに馴染めるようにしてくれた良き友人だ。彼女とは家が近くなのだが、小学校は違い、最近よく一緒に帰る。容姿も整っており、正直タイプだ。しかし、このタイミングで告白するのもなんというか遅い気がして、結局言えず今は僕から見て親友のレベルの女子だ。男女の友情信じてます。虚しいです。
「え、そうなの?あ、みんな集まってるけどあそこでいいの?」
と、彼女に問うと、頷いたので、そこに行き、発表を見ると、僕も三組だった。
「ええー!?同じクラス!?ほんとー?嬉しいなー」
と大袈裟に反応してくるアキ。鬱陶しいな。多分だが、先に僕のクラスを見ていたのだろう。
それを無視して、
「また同じだね。よろしく」
と言う。笑いながら。彼女も笑いながらよろしくと言った。
教室、つまり新生二年三組の教室に入ると、新しいクラスメイトがキャッきキャしていた。
控えめに言ってうるさいのだが、しかし、クラス替えをしたばかりなのでまあ、当たり前なのだろう。
僕は席を確認して自分の席に座る。
最初の席は出席番号順であり、マ行の最後の紅葉花有希と、ヤ行の一番最初の僕、山本健は席が前後になる…ことは無かった。
僕が1番前の席でアキは右の列の一番後ろだ。
「嘘、でしょ!?席前後かと思ってたのに…」
自分の席に鞄を置いて、僕の席に来て、俯き落ち込むアキ。
「まあ、そんなこともあるだろ。確率的には低いかもしれないけど…」
と、とりあえずフォロー(フォローになったのか?)を言う。
アキは僕の机の上に座り、僕に一緒に帰らないかと聞いてくる。おい、ミニスカートなんだから考えて座れよ。僕の前だから良かったものの…いや、良くないが。
「今日は特に用事がないから構わないよ。どうせ早く一人で帰ってもすることは無いし」
と紳士的に返す僕。流石だ。
「本当に?ありがとー!じゃあ私は新しいクラスメイトと交流を深めてくるから!登れないくらい深めてくるから!」
と言い、この場を去った。登れなくなるまでって、どん底じゃねぇかよ。なんかどろどろした友好関係が出来そうだな。
アキが色々と深めに行ったことにより、必然的に僕は孤独状態になった。あと5分でホームルームだから、本を読んでもタイミングが悪い。
どうする。寝るか?それとも教科書を読むか?
後者はいきなりガリ勉だとクラスメイトから思われそうだからとりあえず寝るか。
しかし、5分で寝れる訳がないのは百も承知だ。しかし、子供の頃親から眠れなくても目を瞑るだけでも少しは疲れが取れると教わってきたので、机の上で腕を組み、クロスするところに額を当て、目を瞑る。
何か考えなければ行けないことはないだろうかと思考を動かしていたら、果たして僕は本当に寝てしまった。
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