エピローグ【1】

年の瀬。

薄暗い天気が続く中、職場の配達車に乗って弁当を届ける。

僕は、熱中症にて倒れた後、念の為という事で一日だけ入院をし、その次の日に副店長になった。

しばらく受けていなかったオーディションも、積極的に受けるようになった。

そして、劇団員時代に知り合った先輩に誘われ、その人が団長を務める劇団に所属することになった。

結局僕は、どちらも諦めることが出来なかったのだ。


「生き生きしてる」

菱川は僕の顔を見て、驚いたように言った。

その手には、菱川の会社の求人募集が握られていたが、僕は見て見ぬふりをした。

「熱中症で倒れたって店長から聞いたのに」

と眉を八の字にさせ、呆れていた。


その後、僕は休みの度に、小説を狂ったように読み込んだ。

給料日に、近くの書店に出向き、二十冊ほどの小説を爆買いしていく。

最初は店員に変な目で見られた。

だがそれも、いささか不快ではなかった。

気づいたのだ。

そう、僕に足りないのは人格だ。

物語を読み、その人物になりきり、僕を僕じゃない「そいつ」に仕立て上げる。

貰った台本も、表面がポロポロと剥げ落ちるまで読み込んだ。


副店長の仕事も順調だ。温度管理や食材調達、備品の整理など、あの若い女性一人が抱え込むにはあまりにも重労働な内容のものばかりだった。

新しいバイトも入り、峯田さんが抜けた後の慌ただしさは、瞬く間に消え去った。


「よかったです。」

そう微笑んだ店長とは、以前より会話を交わすようになった。何かと一緒になることが多くなり、今まで知らなかった事も知ることが出来た。

店長もまた、若くして営業成績が右肩下がりのこの店に配属され、心が折れてしまいそうだった。その時、峯田さんは話を聞いてくれていた。

そう、次は僕が店長を支えなければいけない。


僕は空っぽの配達車を店の駐車場に止め、今朝干した洗濯物の安否を考えながら、食材発注の書類と注文表を手に持ち、店に入った。

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