第17話

目を開けると、病院のベットだった。

腕には管が通されており、その先には透明なパックへと行き着いた。

勢いよく、白いカーテンが開いたと思ったら、店長だった。

「暑さが引いたとは言えど、油断なりませんね。」

どういう事なのか、理解出来なかった。

「橋本さん、熱中症だったんですよ。もう大変でね、顔が急に青ざめたと思ったら、そのまま机の上に倒れて。ここ最近、涼しい日が続いたので、その影響ですかね。」

店長は、僕が今朝方羽織ってきたパーカーを膝元で畳みながら言う。

そうか、あれは脱水症状だったのか。

「すみません。」

「いえ、中々意識戻らなかったので、危なかったんですよ。無理は禁物です。」

微笑みながらも眉をひそめる。


「僕は、峯田さんに嫌われました。」

気づいた時にはもう、口から出ていた。

そこからは、栓が壊れた蛇口のように、ゆく宛の無い言葉が流れ出した。

僕が峯田さんにした事も、母親からの願いも、父親の事、夢の事、幸せが分からない事、かつて菱川の彼女が僕に話したように、菱川にも言えない事も、僕の気持ちを全ては話した。

その間、店長はただひたすらに相槌を打ち、否定も肯定もせず、僕のしょうもない話を聴いてくれた。

二時間分の点滴が終わる頃、僕の目は赤く腫れ、枕元には鼻水やら、涙やらを拭ったティッシュが散乱していた。

「僕は幸せになれますか」

そう言った僕に店長は、目を細め、口角を思い切り引き上げ、大きく頷いた。

僕は、僕の幸せは、弁当屋で金銭目的に働くことではない。

自分ではない、他の誰かになりきって、幸せになること。

それは、はっきりとわかった。僕はまだ、夢を捨てきれないと。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る